野 星 6月と7月の後半2回も、オペラを中心に活躍するメゾソプラノの山下裕賀、24年の「プラハの春国際コンクール」の優勝者・佐々木つくし(ヴァイオリン)と続く。優れた音響を誇る日本製鉄紀尾井ホールでの、みずみずしい躍動の響きを楽しもう。シー・バイ・オルガン□□□□□□左より:内田光音 ©kskmse,Foto:Stefan/川越聡子/廣江理枝 ©Ayane Shindo/三浦はつみ ©蓮見 徹/中田恵子 ©Toru Hiraiwa/近藤 岳 ©藤本史昭河野 星瀬 千恵美 ©Peter Adamik【第43回】 4/4(金)19:00 【第44回】 5/16(金)19:00日本製鉄紀尾井ホール問 紀尾井ホールウェブチケット webticket@kioi-hall.or.jp https://kioihall.jp63C × Organ ありがとう神奈川県民ホール 音の記憶、空間の記憶 神奈川県民ホール・オルガン委嘱作品コンサート心に深く刻みたい小ホールのオルガンの音色(ファゴット) 第44回 瀬 千恵美(クラリネット)紀尾井 明日への扉 第43回 河次代を担う俊英ふたりのリサイタル・デビュー文:片桐卓也文:山崎浩太郎 神奈川県民ホールが開館した1975年1月、その小ホールにはドイツのクライス社製のパイプオルガンが設置された。国内の公立ホールとしては最も歴史ある楽器だ。当初は客席から見て舞台右側にあったが、90年に舞台正面に移設。433席という親密な空間でのオルガン体験は特別なインスピレーションをもたらしてくれた。 そのオルガンのために2001年以降多くの委嘱作品が書かれ、神奈川県民ホール休館直前の公演となる3月29日のコンサートで5曲が再演される。作曲家と初演を務めたオルガニストらによるトーク 日本製鉄紀尾井ホール主催の「紀尾井 明日への扉」は、2013年の開始以来、期待の若手アーティストを紹介してきた。現在では第一線で活躍する音楽家も数多く含まれているこのシリーズに、2025年度は4人の俊英が出演する。 4月4日に行われる第43回は、ファゴットの河野星が登場する。東京藝大に学んで、現在は東京フィルハーモニー交響楽団の首席奏者をつとめており、オーケストラの一員としてはすでに聴かれている方も少なくないだろうが、リサイタルはこれが意外にもデビューとなる。ヴィヴァルディから20世紀フランスの作品などを経て、ロマン派のシューマンとウェーバーへと、さまざまな時代のファゴットのための作品を聴かせてくれる。 5月16日の第44回は、クラリネットの瀬千恵美。現在はザルツブルク・モーツァルテウム大学に在籍しながもある。作曲家は権代敦彦(演奏:内田光音 以下同)、柿沼唯(川越聡子)、小鍛冶邦隆(廣江理枝)、坂本日菜(三浦はつみ)、鈴木純明(中田恵子)、そしてオルガニストである近藤岳が書く休館前最後の委嘱作も彼自身によって初演される。 ほぼ25年にわたるその期間に、日本は東日本や熊本、能登での震災を経験し、コロナ禍もあった。時代の記憶は音楽にも刻まれる。それぞれの委嘱作品はこのホールのオルガンを前提としつつ、3/29(土)15:00 神奈川県民ホール(小)問 チケットかながわ0570-015-415 https://www.kanagawa-kenminhall.comら、ベルリン・フィル・カラヤン・アカデミーで学んでいる。ヴィトマンに始まってモーツァルトからベルクまで、ドイツ語圏の作品によるプログラム。シューマンの「3つのロマンス」は河野も演奏するので、楽器を変えての聴き比べも一興だ。それを慈しんだオルガニストたちの想いと一緒に、21世紀の横浜、その時代の息づかいを映し出しているかもしれない。 長い時間をかけて作られるヨーロッパの石造りの教会、その内部に設置されたオルガンとは違い、近代日本の建築物の運命はかなり儚い。しかしホールで体験した音楽は、そのホールのアコースティックとともに記憶に残るはず。この委嘱作品コンサートを深く心に刻みたい。
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