eぶらあぼ 2025.3月号
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佐渡 裕 ©Takashi Iijima大竹しのぶ高野百合絵 ©Takayuki Abe初演時の公演写真 ©堀田力丸櫃本瑠音 ©Masatoshi Yamashiro第662回 定期演奏会〈トリフォニーホール・シリーズ〉 4/19(土)14:00 すみだトリフォニーホール〈サントリーホール・シリーズ〉  4/20(日)14:00 サントリーホール問 新日本フィルチケットボックス03-5610-3815 https://www.njp.or.jp54Music Program TOKYO シアター・デビュー・プログラム 『虫めづる姫君』舞踏×クラシックによる平安文学の鮮烈な舞台作品、ふたたび!佐渡 裕(指揮) 新日本フィルハーモニー交響楽団師バーンスタインの平和への希求を継承して文:飯尾洋一文:乗越たかお この4月で新日本フィルハーモニー交響楽団の音楽監督として3シーズン目を迎える佐渡裕。シーズン開幕の定期演奏会では恩師レナード・バーンスタインの作品を中心としたプログラムに平和への祈りを込める。 メイン・プログラムは交響曲第3番「カディッシュ」。オーケストラに朗読、ソプラノ、混声合唱、児童合唱が加わる大作だ。朗読を務めるのは日本を代表する女優、大竹しのぶ。その存在感は確実に作品の印象を新たにすることだろう。ソプラノは佐渡からの信頼も厚い高野百合絵。晋友会合唱団、東京少年少女合唱隊が加わって、万全の布陣が敷かれる。 「カディッシュ」とは「聖なるもの」を意味するユダヤ教の祈りの歌。バーンスタインはこの交響曲を1963年に完成させた。完成目前でジョン・F・ケネディ大統領が暗殺されたことから、作品はケネディ大統領の思い出に捧げられている。神との対峙、信仰のゆ ドラマやアニメなどでいま平安時代はちょっとしたブームだ。平安文学『堤中納言物語』の一篇『虫めづる姫君』は、周囲から押しつけられる「姫としてのたしなみ」には目もくれず、自分の「好き」「推し」を貫き通す。その姿は現代の我々にも深く通じるものだ。 この公演で演出・振付を担当、そして姫君を演じるのは、世界的な舞踏カンパニー大駱駝艦で長年活躍した我妻恵美子である。東京文化会館の「シアター・デビュー・プログラム」はクラシック音楽と他ジャンルとのコラボによるオリジナル作品で青少年と劇場をつなぐもの。「平安文学とクラシック音楽と舞踏」という本作は、なかでもかなり異色だ。だが2022年の初演時には国際的な音楽賞にノミネートされるなど、高い評価を得ている。 白塗りにガニ股でビョンビョン飛び回る奇怪な「姫君」が強烈な印象を与え、男性舞踏手(塩谷智司、鯨井謙太らぎと回復をテーマに、さまざまな様式の音楽が一曲に混在する野心作だ。佐渡はこの作品を繰り返し取り上げており、かつてはフランス放送フィルと、近年ではトーンキュンストラー管とレコーディングを重ねている。 あわせてバーンスタインの「ミサ」から3つのメディテーション(チェロ独郒)による「平安ラップバトル」など見どころは満載。そんな姫君に興味を持った貴族の殿方が、恋の歌とともにカラクリの蛇を贈って姫をからかうが……という楽しみな展開も待ち受けている。 音楽監督・作編曲・ピアノは加藤昌則である。管楽器と弦楽器と自らのピアノで構成した奏者陣が、ソプラノの三宅理恵とともにバッハ、モーツァルト、ベートーヴェン等の聞きなじみのある曲を演奏、子ども達も楽しく聴ける。さらに加藤自作の挿入歌〈手まり歌〉(歌詞6/20(金)19:00、6/21(土)14:00 東京文化会館(小)問 東京文化会館チケットサービス03-5685-0650 https://www.t-bunka.jp奏:櫃本瑠音)、ベートーヴェンの「レオノーレ」序曲第3番が演奏される。「レオノーレ」序曲第3番はかつてバーンスタインが「広島平和コンサート」で「カディッシュ」と組み合わせた作品。佐渡にとって忘れられない公演だという。今回も多くの人々の記憶に残る演奏となるにちがいない。は台本も書いたペヤンヌマキ)は、観客が帰り道で口ずさみたくなるほど親しみやすい曲で、舞台の余韻にふさわしい。新しい舞台体験にして、どこか懐かしさを感じる作品である。

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