eぶらあぼ 2025.3月号
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©飯島 隆Yutaka Sado/兵庫県立芸術文化センター芸術監督、指揮“種まき”を続けた20年新たに開くワーグナーの扉Interview  阪神・淡路大震災からの“心の復興”のシンボルとして、震災から10年の2005年にオープンした兵庫県立芸術文化センター。同館およびその専属オーケストラである兵庫芸術文化センター管弦楽団(PACオーケストラ)の芸術監督として一からその発展に寄与した佐渡裕は、劇場設立のアイディアを聞いた頃から現在までをこう振り返る。「当時の僕は40歳。指揮者としてのキャリアを考えた時、これに取り組めばかなりの時間とエネルギーを捧げることになると思いましたが、そこで決断して、気づけばもう20年…こんなに長くやるとは思ってもいませんでしたね。 おかげさまで3日間あるPACの定期演奏会は完売する公演も続出、人口50万人弱の西宮で、年間の来場者数がのべ45〜50万人というのは奇跡の数字だと言われています。いわゆる世界トップのオーケストラではないけれど、PACならではの魅力が生のステージから伝わるからこそ、皆さんに愛されているのだと思います」 昨年末のジルヴェスター・スペシャル・コンサートを皮切りに開館20周年企画がスタート。震災から30年の当日である1月17日が初日となった1月定期演奏会では、マーラー「千人の交響曲」を取り上げた。「今回は、PACから羽ばたいて今や世界のオーケストラで活躍する40名近いメンバーが参加してくれました。こういう成果を見ると、自分は長い時間をかけて種まきをしてきていたのだと改めて思いますね」 もう一つ、種まきの成果を感じるのが、聴衆の変化だ。それを特に実感するのが、毎年恒例となっている「佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ」への反応だという。「スタートした頃は、オペラは初めてという方ばかり。今では毎年楽しみにしてくださって、キャストの30兵庫県立芸術文化センター開館20周年記念公演佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2025ワーグナー:歌劇《さまよえるオランダ人》(全3幕/ドイツ語上演・日本語字幕付/新制作)7/19(土)、7/20(日)、7/21(月・祝)、7/23(水)、7/24(木)、7/26(土)、7/27(日)各日14:00 兵庫県立芸術文化センター□ 芸術文化センターチケットオフィス0798-68-0255https://www.gcenter-hyogo.jp※配役などの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。取材・文:高坂はる香違う両組で最低2回は観るという方も多いんです」 20周年に選んだのは、プロデュースオペラ初のワーグナー作品《さまよえるオランダ人》。「やはりワーグナーの世界には、捨ておけない特別な魅力があります。難しい印象があるかもしれませんが、その扉を開ける作品として《オランダ人》は一番適しているのではないでしょうか。オーケストラによる荒々しい海の表現、水夫のたくましい歌と彼らを待つ女性たちの合唱の鮮やかなコントラストなど、わかりやすい描写がたくさんあります。さらに今回は、以前ウェーバー《魔弾の射手》でもタッグを組んだミヒャエル・テンメが演出を手掛けてくれます。映像を駆使した壮大なスケールの舞台になるでしょう」 20周年を節目に、また次の挑戦に向かいたいと意気込む。「震災から30年が経ちましたが、大切な人を亡くした方々の悲しみが消えることはありません。ここは特別な想いを抱えてオープンした劇場です。今では阪神間は見事に復興を果たしましたが、それは全国からたくさんの方が力を貸してくださったおかげです。 会場をいっぱいにすることだけがゴールではありません。これからも街の方々の心の広場となれるよう挑戦したいし、同時に被災から復興したモデルの街として、世の中に何か恩返しをしていかなくてはと思っています」佐渡 裕

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