eぶらあぼ 2025.3月号
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CDCDCDCD110J.S.バッハ(ネヴァーマインド編曲):ゴルトベルク変奏曲/ネヴァーマインド葵トリオが、師と仰ぐ磯村和英を迎えてピアノ四重奏曲を録音した。磯村は東京クヮルテットでヴィオラを創設から解散まで務めたレジェンド。モーツァルトの第2番は、冒頭から集中度が高く、実に爽やか。ピアノの走句もとてもきれいだ。どの部分も溌溂として活力に満ちている。緩徐楽章の弦とピアノのデリケートな対話も、軽やかなフィナーレも楽しい。ブラームスは20代後半の覇気を感じさせる。変化に富んだ楽想が詰め込まれた密度の濃い傑作だ。それをこの4人は見事に音化して、たっぷりと聴かせる。とりわけロマ風の終曲は、生命力に溢れている。このメンバーで是非とも他の四重奏曲も録音してほしい。(横原千史)古楽の名手たちが自ら編曲したバロック室内楽版「ゴルトベルク変奏曲」は、一つひとつの声部を個性豊かに際立たせつつ、それが濃厚に絡み合う。最初のアリアでは、鮮烈なアクセントのチェンバロに、アンナ・ベッソンによるトラヴェルソが抑揚も豊かに旋律を紡いでいく。変奏では、フルート・ソナタや、ヴァイオリン・ソナタ、あるいはトリオ・ソナタの楽章のように多彩な響きを実現。通奏低音も雄弁で、キレキレの鍵盤奏者ジャン・ロンドーは2種類のチェンバロとオルガンを巧みに使い分ける。第29変奏でのオルガンを交えたスケール感あるサウンドが印象的だ。 (鈴木淳史)「ノクターン(夜想曲)」といえばショパンのそれが有名で、その創始者であるジョン・フィールドの全18曲を収めたアルバムはさほど多くはない。アリス=紗良・オットがフィールドのノクターンの魅力を知ったのはコロナ禍だという。どれだけ彼女の心を打ち抜いたのかは、このアルバムを聴くとよくわかる。素直かつノーブルな旋律や、柔らかく親密な内声部の伴奏を、オットは慈しみに満ちたタッチで響かせ、知的かつ繊細に作品ごとの気分を描く。第12番のコーダなどには彼女らしい工夫も聴き出せる。趣味の良い間合いの表現も流石である。折に触れて聴き続けたい一枚だ。(飯田有抄)日本人初のドイツ宮廷歌手の称号を得るなど、長きにわたり欧州で活躍し、現在は日本のオペラ界を牽引する存在となっている小森輝彦。歌曲の領域でも圧倒的な存在感を放つ彼が、デビュー盤のR.シュトラウスに続いてリリースしたのはシューベルトの「冬の旅」である。ドイツ語の発音そのものの美しさと立体感はもちろん、そこからさまざまな色と香りすら感じさせる歌唱は、楽曲の世界観を鮮やかに届けてくれる。前回に続き伴奏を担当する井出德彦のピアノがそれをさらに深く掘り下げ、聴く者に主人公の見ている景色を追体験させるかのようだ。  (長井進之介)磯村和英(ヴィオラ)葵トリオ【秋元孝介(ピアノ) 小川響子(ヴァイオリン) 伊東裕(チェロ)】ネヴァーマインド【アンナ・ベッソン(フラウト・トラヴェルソ) ルイ・クレアック(ヴァイオリン) ロバン・ファロ(ヴィオラ・ダ・ガンバ) ジャン・ロンドー(チェンバロ/オルガン)】Alpha Classics/ナクソス・ジャパンNYCX-10508(2枚組) ¥3960(税込)アリス=紗良・オット(ピアノ)小森輝彦(バリトン)井出德彦(ピアノ)J.S.バッハ(ネヴァーマインド編):ゴルトベルク変奏曲モーツァルト:ピアノ四重奏曲第2番ブラームス:ピアノ四重奏曲第1番ナミ・レコードWWCC-8026 ¥3300(税込)フィールド:ノクターン第1番〜第18番ユニバーサル ミュージックUCCG-40133(初回限定盤・2枚組・CD+DVD) ¥4400(税込)UCCG-45114(通常盤) ¥3300(税込)シューベルト:冬の旅日本アコースティックレコーズNARD-5085 ¥3080(税込)葵トリオのピアノ・クァルテット plays モーツァルト&ブラームス ―ヴィオラの名手 磯村和英氏を迎えて―ジョン・フィールド:ノクターン全集/アリス=紗良・オットシューベルト:冬の旅/小森輝彦

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