エリアフ・インバル ©Sayaka Ikemotoグリゴリー・シュカルパ ©Daniil Rabovsky©大窪道治エストニア国立男声合唱団53文:山崎浩太郎文:飯尾洋一 ラフマニノフの「死の島」と、ショスタコーヴィチの「バービイ・ヤール」。この2曲をエリアフ・インバルが指揮すると聞くだけで、胸が高鳴る。 「死の島」は、ベックリンの同名の油彩画に触発された交響詩。柩らしきものを載せた小舟が、墓所と思しき小島に近づく。舟を揺らす波のうねりが音楽を支配し、暗鬱な雰囲気のなか、ラフマニノフが偏愛したグレゴリオ聖歌「怒りの日」のテーマが、最後に響く。 「バービイ・ヤール」は、旧ソ連の反体制詩人エフトゥシェンコの詩に、ショスタコーヴィチが音楽をつけた交響曲。タイトルとなったのはウクライナの地 ヴァイオリンの毛利文香、ヴィオラの田原綾子、チェロの笹沼樹の3人からなるTrio Rizzle(トリオ・リズル)が、トッパンホールで4回目の公演を開く。今回のプログラムはシェーンベルクの弦楽三重奏曲とバッハのゴルトベルク変奏曲(シトコヴェツキの弦楽三重奏版に基づくTrio Rizzleバージョン)という興味深い組合せ。後世に決定的な影響を与えた西洋音楽史のふたりの巨人が並べられる。 シェーンベルクの弦楽三重奏曲は作曲者晩年に書かれた12音技法を用いた作品。この編成のために書かれた20世紀の作品として、避けて通ることのできない名作といえるだろう。作曲当時、シェーンベルクは発作を起こして昏睡状態に陥った。その臨死体験の記憶が作品に反映されたという逸話が知られている。臨死体験が描写されているかどうかはともかくとして、12音技法で書かれた作品としては聴名で、ナチス・ドイツによってユダヤ人大量虐殺が行なわれた場所。そこにある追悼碑は、2022年に開始されたロシア軍によるウクライナ侵攻の際、ミサイル攻撃を受けたという。正義はどこにあるか。声を張りあげる人々の立場により、あやふやに揺れ動く。そのさなか、詩人は時を超え、皮肉と反語にみちた詩をつぶやく。ショスタコーヴィチの音楽の陰鬱なユーモアは、表きやすい部類に入る。 本来、鍵盤楽器のために書かれたバッハのゴルトベルク変奏曲を、ヴァイオリニストのドミトリー・シトコヴェツキが弦楽三重奏用に編曲したのはグレン・グールドの追悼のためだった。この編曲は広く支持され、多くの奏者たちによって演奏されてきた。Trio Rizzleもこの編曲をこれまでに演奏しているが、今回はバッハの原曲を参照して得た知見を生かした「シトコヴェツキ編曲に基づくTrio Rizzle版」が披露される。長年の室内楽仲間3/10(月)19:00 トッパンホール問 トッパンホールチケットセンター03-5840-2222 https://www.toppanhall.com面の美辞麗句とは裏腹の真意、面従腹背を、ひたすらに暗示し続ける。 都響がロペス=コボスの指揮でこの曲を鮮烈に演奏した2013年の響きを、筆者はいまも憶えている。それがインバルの指揮で甦る。ロシアに生まれて今はベルリンを本拠とするバス歌手、グリゴリー・シュカルパと、ロシアの脅威を肌で感じているであろうエストニア国立男声合唱団の歌声と、ともに。楽しみだ。である3人の信頼関係が、弦楽三重奏の新たな喜びをもたらしてくれることだろう。第1016回 定期演奏会Aシリーズ 2/10(月)19:00都響スペシャル 2/11(火・祝)14:00東京文化会館問 都響ガイド0570-056-057 https://www.tmso.or.jpエリアフ・インバル(指揮) 東京都交響楽団いま、意味深長に響きわたる「バービイ・ヤール」Trio Rizzle Vol.4俊英3人のゴルトベルクをめぐる新たな挑戦
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