eぶらあぼ 2025.2月号
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©Marine Cessat-Bégler37Information東京・春・音楽祭2025東京春祭 歌曲シリーズ vol.41 マウロ・ペーター(テノール) & 村上明美(ピアノ)3/18(火)19:00 東京文化会館(小)曲目/シューベルト:美しき水車屋の娘 D795vol.42 クリスティアン・ゲルハーヘル(バリトン) & ゲロルト・フーバー(ピアノ) I3/19(水)19:00 東京文化会館(小)曲目/シューマン:リーダークライス op.39、3つの歌 op.83 他vol.43 クリスティアン・ゲルハーヘル(バリトン) & ゲロルト・フーバー(ピアノ) II3/22(土)18:00 東京文化会館(小)曲目/シューマン:ケルナーによる12の詩 op.35        3つの詩 op.119 他vol.44 アドリアナ・ゴンサレス(ソプラノ) & イニャキ・エンシーナ・オヨン(ピアノ)4/8(火)19:00 東京文化会館(小)曲目/デュソー:機会 op.10-1、神託 op.2-2   コヴァッティ:《ダフネ》より〈サアディの薔薇〉   グラナドス:「スペインの粋な歌曲集」より   アルベニス:「4つの歌」より 他□ 東京・春・音楽祭サポートデスク050-3496-0202https://www.tokyo-harusai.com感から、終曲〈小川の子守歌〉における静かなる哀悼の念まで、自然かつ巧みな息遣いがまずは楽しみである。なお、ピアノの村上明美はミュンヘン在住でドイツ国内で幅広く活躍中の注目株。落ち着きと温かみを絶やさぬ彼女のタッチにも注目してほしい。 そして、最後に、グアテマラ出身の新星ソプラノ、アドリアナ・ゴンサレスについて(4/8)。筆者は彼女の歌声に以前から親しんでいるが、その完成度の高さには目を見張るものがある。アルベニスやグラナドスなど、自身の母語たるスペイン語の歌はもちろんのこと、ロベール・デュソーとエレーヌ・コヴァッティという作曲家夫妻による近代フランス歌曲の数々からは、国籍や人種に関係なく、「楽譜と歌声の見事な共振ぶり」が聴き取れる。デュソーの音運びもコヴァッティのそれも共にフォーレの影響が強いとはいえ、彼ら独自の平明さや率直な訴えかけが旋律に息づくので「一段ずつ階段をじっくりと登りゆくような」静かな高揚感が曲に満ちて非常に清々しい。中でもデュソーの〈機会〉やコヴァッティの〈サアディの薔薇〉では、ゴンサレスの声の厚みと明晰な発音が、心地よい揺らぎや官能性を引き出して圧巻だと思うので、この機にぜひ、生の歌声を体験してもらえればと願う次第。バスク出身のイニャキ・エンシーナ・オヨンの語り掛けるようなピアノも、デュソー〈神託〉の前奏部など――題名とは裏腹に曲調は親しみやすい――で体感できるだろう。未知の曲に触れる歓びをぜひ味わってみてほしい。期待する。このほか、晩年期の「3つの詩」op.119では、第2曲〈戒め〉の複雑な音運びとちょっとした厭世観を、ゲルハーヘルがどう描き出すかも聴きものだろう。以前インタビューした折、彼は照れながら「以前はもう少しハイ・バリトンの色合いが強かったでしょうが、年を重ねて声が暗く重くなりつつあるから、いつまで青春を歌えるか分からないけれど」と話していたが、これなどまさしく、ベテランならではの自然な表情付けが活きるはず。これまた期待大の一曲である。 続いては、スイス出身のテノール、マウロ・ペーターをご紹介。まだ30代後半だけに、「枯れていない」声音を誇る彼だが、今回はシューベルト三大歌曲集の一つ「美しき水車屋の娘」を取り上げるとのこと(3/18)。作曲者自身もテノールであったと伝えられているだけに、この声種の明るい響きが活きるリートは多いのだが、ペーターの持ち声にはひときわの滑らかさがあり、声音も青年のように活力あるものなので、本作冒頭の〈さすらい〉の溌溂としたAdriana Gonzalez

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