eぶらあぼ 2025.2月号
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©Christian Felber©Gregor Hohenberg文:岸 純信(オペラ研究家) オペラがダイナミックな演説なら、歌曲は内省的な朗読。歌曲にもオーケストラ伴奏の曲はあるが、基本的にはピアノが歌声に寄り添うのみで、両者で詩興を自由に膨らませるのだ。 いまや日本の春の風物詩たる東京・春・音楽祭の「歌曲シリーズ」では、今年も選りすぐりの名歌手たちが、歌曲の涼やかな味わいを深く掘り下げるよう。例えば、ドイツの名手クリスティアン・ゲルハーヘルは、シューマンのみで二晩のステージを挙行。初回(3/19)では作曲家の代表作たる歌曲集で、全12曲が“自然の在り方”で結ばれる「リーダークライス」op.39をメインに据えているが、筆者が特に注目するのは、彼がほかに「3つの歌」op.83全曲を披露36すること。というのも、本作第1曲の〈あきらめ〉は、失恋の苦しみを切々と歌うもので多くの男声歌手が取り上げているが、第2曲〈献身の花〉は「ひたすら愛を待て」と説く内容で女声が好んで歌う一曲なので、この名バリトンがそこをどう表現するかと純粋な興味を覚えたからである。 また、第二夜(3/22)では、長大な歌曲集「ケルナーによる12の詩」を選曲。シューマンのリートといえば“歌とピアノが対等”という一大特徴があるが、今回のピアニスト、ゲロルト・フーバーなら、ゲルハーヘルの繊細な歌い回しを支えつつ、第1曲〈あらしの夜の楽しみ〉の絶え間ない連打や第3曲〈旅の歌〉の長い後奏もきりっと纏め上げるのではと――大ベテランから期待の新星まで――大ベテランから期待の新星までピアニストと二人三脚で創り上げる詩的世界ピアニストと二人三脚で創り上げる詩的世界東京・春・音楽祭2025 歌曲シリーズの聴きどころMauro PeterChristian Gerhaher

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