eぶらあぼ 2025.1月号
64/137

山下一史 ©ai ueda福間洸太朗 ©Shuga Chiba舘野 泉 ©Akira Muto大谷康子 ©Masashige Ogata山下一史(指揮) 愛知室内オーケストラ新シーズンの開幕は「左手の巨匠」舘野泉を迎えて夜クラシック Vol.36 大谷康子(ヴァイオリン) 福間洸太朗(ピアノ)洋楽黎明期の秀作を漱石ゆかりの地で聴く61文:池田卓夫文:室田尚子 愛知室内オーケストラ(ACO)の20 25/26シーズンは4月18日、愛知県芸術劇場 コンサートホールの第86回定期演奏会で幕を開ける。指揮は22年4月からACO初代音楽監督を務める山下一史(1961~)、ピアノ独奏に「左手の巨匠」の舘野泉(1936~)を迎える。 桐朋学園からベルリン芸術大学に留学した山下は1985~89年、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団で終身指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤンが亡くなるまでアシスタントを務めて以来、ドイツ=オーストリア音楽をレパートリーの柱に据えてきた。ACOでも客演時代のR.シュトラウス、就任披露演奏会のシューマン、ブラームスなどドイツ・ロマン派を皮切りとして、次第に古典派のモーツァルト、ベートーヴェンへと歩を進めてきた。長期の明確な育成方針を受け、ACOのドイツ音楽への適性も一貫して深まった。 4月の第86回定期ではベートーヴェ 2014年にスタートした文京シビックホールの「夜クラシック」は、テーマ曲であるドビュッシー「月の光」を含む特別なプログラムとアーティストのトークで癒しのひとときを贈る人気シリーズ。10周年にあたる2024-25シーズンは、滅多に聴けない編成や工夫を凝らした選曲で更なる特別感を醸し出している。1月は、2025年にデビュー50周年を迎えるヴァイオリニストの大谷康子が「夜クラ」初登場。共演は現在ドイツと日本を拠点に独自の活動を展開しているピアニスト福間洸太朗。ベテラン・ヴァイオリニストと気鋭のスターピアニストという、ありそうでなかった組み合わせは何かが起こりそうな予感を抱かせる。 そして「“夏目漱石と月”に寄せて」というコンサートのテーマがまた興味深い。漱石は、英国留学から帰国後に文京区駒込千駄木町(現・向丘)に住んでいた文京区ゆかりの文豪。そして「I love ンの交響曲第1&7番の2曲をとり上げる。J.S.バッハの死後わずか50年で書かれ新時代の到来を告げた最初の交響曲と、ワーグナーが後に「舞踏の神化」と称賛した「ベト7」の対比は聴きものだろう。 脳溢血の後遺症によって2003年以降、左手のピアニストとして活動する舘野は24年11月に米寿(88歳)を祝い、深く澄み切った円熟の極みにある。左手のための新作を数多く委嘱初演、12年から日本に住むアルゼンチンの作曲家パブロ・エスyou」を「月が綺麗ですね」と訳したという都市伝説が残されている。そんな漱石の時代、すなわち日本における西洋音楽黎明期の作品から、山田耕筰の「『荒城の月』を主題とする変奏曲」、最初期の女性演奏家・作曲家として知られる幸田延のヴァイオリン・ソナタ第1番より第3/28(金)19:00 文京シビックホール問 シビックチケット03-5803-1111 https://www.b-academy.jp/hall/カンデ(1971~)とは特に親しく、今回は「左手のためのピアノ協奏曲『アンティポダス』」(2014)の再演に臨む。アンティポダスは「対蹠地」の意味で、地球上の正反対に位置する日本とアルゼンチンを示している。1楽章、夭折の天才といわれる貴志康一の「竹取物語」の3作をチョイス。もちろんエルガー「愛の挨拶」やベートーヴェン「月光ソナタ」、フランクのヴァイオリン・ソナタといったクラシックの名曲もラインナップされている。ふたりの名手による魅力的な演奏会になりそうだ。第86回 定期演奏会4/18(金)18:45 愛知県芸術劇場 コンサートホール 1/24(金)発売問 愛知室内オーケストラ052-211-9895 https://www.ac-orchestra.com

元のページ  ../index.html#64

このブックを見る