©Yukisuke Fushimi©2012 Almendra Music民族・言語・思想の壁を超えて未来に向かう音楽会デビュー50周年記念特別コンサート 大谷康子節目の年に切なる想いを込めて生きるとはすなわち歌うこと41ジョヴァンニ・ソッリマ 無伴奏チェロ・コンサート 2025Giovanni Sollima plays BACH !文:片桐卓也文:青澤隆明 2025年にデビュー50周年を迎える大谷康子。1月10日にはサントリーホールで「50周年記念特別公演」を開く。単にヴァイオリンの名曲を集めたコンサートではなく、自身の活動の50年間を振り返りながらも、「戦争の多くなった今こそ、自分に出来ることは何か」という想いも込めた。 東京藝術大学附属音楽高等学校の卒業試験で演奏した思い出のラヴェル「ツィガーヌ」(ピアノ/藤井一興)でスタート。大谷が活動のひとつの柱としてきた弦楽四重奏団「クヮトロ・ピアチェーリ」によるショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第8番は「ファシズムと戦争の犠牲者の想い出に捧げる」とされる作品で、メンバーの苅田雅治(チェロ)の師である井上頼豊(シベリア抑留を経験)の思い出に繋がる。 R.シュトラウス「メタモルフォーゼン」は戦争で破壊されていくドイツの街、文化に想いを馳せた23の独奏弦楽器のための ジョヴァンニ・ソッリマがチェロを弾く。楽器が固有の声で鳴っている、というだけではない。ソッリマは弦を、記憶を、魂を、やむにやまれず掻き鳴らす。 この場での新たな体験でありながら、懐かしさもある。自然の懐に抱かれるような広がりもあれば、静けさを呼び覚ます語りかけもある。そこにはしたたかな繋がりがあり、それがソッリマの音楽をより大きなもの、遥かなものに繋ぎ留めている。そのむかしバッハがそうであったように、人智と技芸を尽くすのは、過去と未来を結びながら、まさしく創造の神秘に触れるためだ。 ソッリマは作品の内に生きる心の焔を、自身の責任において強かに呼び覚ます。バッハが大きな流れを結んだように、民族の歌が時代を超えて人々を渡るように、ソッリマはチェロで創造の鉱脈を掘り当てる。そのことは、古きバッハやダッラーバコでも、シベリウスでも、自作でも、ジミ・ヘンドリックス作品だ。また、大谷が司会を務めるテレビ番組『おんがく交差点』でも活躍する作曲家・萩森英明への委嘱新作「未来への讃歌(ヴァイオリン協奏曲)」も山田和樹指揮のもと披露されるが、そこには様々な民族楽器が加わる。 その特別コンサートの後、5月には名手イタマール・ゴランとのブラームス作品を中心としたリサイタル・ツアー(全国13公演)が待っている。大谷が敬愛するブラームスのヴァイオリン・ソナタでは、音楽的に共感を深めるふたりの演奏から、さらなる成熟へ歩み出す彼女の魅力を感じることができるはずだ。1/10(金)18:30 サントリーホール問 ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 https://www.japanarts.co.jpでも坂本龍一でも変わらない。どこまでも地続きなのは、ソッリマが多様な世界を冒険の磁場としているからである。 ソッリマが弾けば、バッハも、故郷シチリアの民謡も、エンジェルも、違う土地に生まれ、おなじ魂の土を宿し、高く晴れた空に響く。折しもバッハの無伴奏組曲全曲を彼らしいユニークなかたちで3枚組アルバムにまとめたソッリマが、それら高峰を核として、精力的かつ縦横無尽に、新旧にわたる時をまたとない二夜に紡ぎ出す。 生きることは、すなわち、歌うことである。ソッリマのチェロが切実に語るのはいつも、そうした人間の熱き性だ。3/25(火)19:00 浜離宮朝日ホール 3/26(水)19:00 紀尾井ホール 問 プランクトン03-6273-9307 https://plankton.co.jp
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