eぶらあぼ 2025.1月号
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SACDCDCDCD112R.シュトラウス&ラフマニノフ/横坂源&沼沢淑音ハンス・ウルリヒ・シュテープス作品集 Vol.II/高橋明日香うつろな心/野本哲雄らゔ・そんぐ〜日本の唄/坂下忠弘後期ロマン派の末期に位置する2つの大曲が、かくも「過剰な」音楽だったかと再認識させられる。若きシュトラウスのトランス状態のような高揚、ラフマニノフの底を破るほどの憂愁の深さ。だが2人の奏者は無闇に憑依の沼に堕ちるのではなく、冷静な俯瞰の眼で音楽の流れを見失わず、太く力強い線で輪郭を描いてゆく。その結果として曲の過剰性が「自然に」浮かび上がってくるのだ。間違いなく新しい世代のロマンティシズムがここにある、と言えるだろう。青澤隆明氏のライナーノーツの熱さもむべなるかな。アンコール的に置かれたグリーグがその熱を程よく落ち着かせてくれる。心憎い。(矢澤孝樹)ハンス・ウルリヒ・シュテープス(1909~1988)は、ヒンデミットの弟子で、ドイツの作曲家、リコーダー奏者、教育家。リコーダーの高橋明日香を中心とする作品集第2弾は、自作の詩による声楽曲が入っている。「飼い葉桶の歌」はイエス降誕の場面で、星の煌めきをピアノとアルトリコーダーで描き、美しい光の世界と祈りを歌う。「全知全能の時の流れよ」は、3楽章からなる荘厳な聖歌風の歌。無伴奏の「ヴィルトゥオーゾ組曲」は、高橋の切れ味の良いリズムの運動性と華麗な技巧が楽しめる。最晩年の「フリオーゾ、ジーグ、アリア」では、軽やかさと洒脱さがシュテープスの行き着いた境地を表しているかのようだ。(横原千史)野本哲雄は声楽やチェロとのデュオ、後進の指導などを精力的に行う実力派のピアニスト。タイトルの「うつろな心」とは、18世紀後半イタリアのオペラ作曲家・パイジェッロのアリアである。この曲のピアノ版に始まり、ベートーヴェンの「アンダンテ・ファヴォリ」やシューベルトの即興曲、ショパンやドビュッシーの練習曲など、歌謡性に富む小品を選んで収めたピアノ・アルバムだ。92鍵のベーゼンドルファーModel275からは、時折フォルテピアノのような甘くノスタルジックな音色が繰り出される。歌心のニュアンスに満ち、安らぎを与えてくれる一枚である。(飯田有抄)坂下忠弘は、第9回中田喜直記念コンクール大賞及び中田喜直賞など様々な受賞歴をもち、オペラ、歌曲の他にも多彩なジャンルで活躍中のバリトン。本盤は、坂下のあらゆる楽曲にマッチするあたたかくのびやかな歌声、歌詞の内容を鮮やかに表現する日本語のディクションといった魅力を伝えるものとなっている。第1曲の〈朧月夜〉から、柔らかな響きに包まれた美しい発音によって世界観を届けてくれる歌手だということがよくわかるだろう。また特筆すべきは松下倫士のピアノ。坂下の声との溶け合いはもちろん、情景や心情をより立体的に届ける役割を見事に果たしている。(長井進之介)横坂源(チェロ)沼沢淑音(ピアノ)高橋明日香(リコーダー)大瀧拓哉(ピアノ)松井亜希(ソプラノ)布施奈緒子(メゾソプラノ)野本哲雄(ピアノ)オクタヴィア・レコードOVCL-00862 ¥3850(税込)シュテープス:プレリューディウム̶人生の朝、ニ調のソナタ、飼い葉桶の歌、ヴィルトゥオーゾ組曲、全知全能の時の流れよ̶聖歌風の詩、フリオーゾ ジーグ アリアコジマ録音ALM-3135 ¥3300(税込)パイジェッロ:うつろな心/ベートーヴェン:アンダンテ・ファヴォリ/シューベルト:即興曲 op.90-1/ショパン:練習曲「革命」/ドビュッシー:練習曲第11番「組み合わされたアルペジオのために」/ラフマニノフ:絵画的練習曲 op.39-9/リョベート:盗賊の歌 他ナミ・レコードWWCC-8021 ¥3300(税込)岡野貞一(松下倫士編):朧月夜/日本古謡(松下編):うさぎ/別宮貞雄:さくら横ちょう/山田耕筰:赤とんぼ/平井康三郎:九十九里浜/松下倫士:手/武満徹(松下編):死んだ男の残したものは、小さな空/中田喜直:霧と話した/大中恩:ふるみち 他坂下忠弘(バリトン)松下倫士(ピアノ)録音研究室(レック・ラボ)NIKU-9066 ¥3080(税込)R.シュトラウス:チェロとピアノのためのソナタ/ラフマニノフ:ピアノとチェロのためのソナタ/グリーグ:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第3番より第2楽章(チェロのための編曲版)

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