eぶらあぼ 2024.12月号
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四人組 × 東京シンフォニエッタ全音現代音楽シリーズ 四人組とその仲間たち第30回東京シンフォニエッタ 第56回 定期演奏会12/11(水)19:00 東京文化会館(小)問 AMATI 03-3560-3010 https://sinfonietta.tokyo  全音楽譜出版社03-3227-6280 https://www.zen-on.co.jp44Interview池辺晋一郎(作曲) × 板倉康明(東京シンフォニエッタ音楽監督/指揮/クラリネット)日本の音楽創作を牽引し続けた人々の想いが交錯する記念公演 “現代の音楽”が生まれる熱い現場を目の当たりにした。12月に開催される「四人組 × 東京シンフォニエッタ」公演について、新作を提供する池辺晋一郎と同楽団音楽監督・板倉康明へのインタビューの場でのこと。池辺が席に着くなり「今度の曲、あと少しで完成するよ」と書き立てホヤホヤの総譜を取り出し、板倉に渡したのだ。本公演で初演予定のクラリネット協奏曲で、クラリネット奏者としてソロを務める板倉は、予想外に渡された手書きスコアを目にして大興奮状態に。板倉「音楽家として望外の喜びです。現代のクラリネット協奏曲は、人気作曲家たちが書いてはいるけれど違和感があるものも多い。池辺先生の新作を拝見すると、一目でクラリネットの響きが聞こえてきて、愛情が伝わる。感動しました。早く練習したい!(笑)」 1994年に全音楽譜出版社(全音)の主催で開始された「四人組とその仲間たち」。固定の4人と仲間の作曲家に毎年新作を委嘱、演奏して出版まで行うという、日本では稀少かつ貴重そのものの活動。それが毎年継続し、今年30回目を迎える(2020年は新型コロナウイルスの影響で中止)。東京シンフォニエッタとのコラボレーションとなる今回、フィーチャーされるのは「四人組」=池辺晋一郎、新実徳英、西村朗、金子仁美。池辺「『四人組』は世界に類例のないユニークなものだと思います。楽譜出版社がこういうコンサートをすること自体、非常に稀有なこと。それを30回というのは本当にすばらしい」板倉「奇しくも東京シンフォニエッタも1994年設立で、『四人組』と同じく現代音楽のために約30年活動してきました。私自身も『四人組』第1回から出演させていただいてきて、このコラボは実現させたかった。残念ながら西村朗さんは亡くなりましたが、作品は永久に残る。作品があるということは、そこに西村さんもいるわけです。我々演奏家も演奏記録と作品記録が残っていく。非常に貴重なことです」 「四人組」のメンバーは、全音の田中明氏(のち社長)によって集められたという。池辺「事前の相談は受けなかったような…田中さんの独断だったと思います。最初は違うメンバーがいて、2000年から金子仁美に代わり、その後は不動です」板倉「田中さんの慧眼で、将来名前が残っていく作曲家を選んだのでしょう。実際、耳慣れない音を出すことが“現代音楽”ではないわけですが、『四人組』は奏者に対するリスペクトをお持ちの作曲家ばかりです」 現代音楽の本筋を示し続けるべく、両者とも今回の公演に意気込む。作品は、池辺・新実・金子の新作(世界初演)に西村の「虹の体」(2008)。ここで4人の共通点を聞くと、「大酒飲み!(笑)」と両者の即答が。中でも男性陣は若い頃からの付き合いだったそう。池辺「新実と西村の二人は大学時代に出会い、お互い刺激を受けて一緒に走り出した。のちに年長の僕も加わり、仲が良かったし、3人でもしょっちゅう飲んでいました。僕が出会った人類の中で、最も酒が強いのは西村朗。あんな酒豪は他にいない(笑)。ちなみに2位は三善晃。『四人組』設立の田中明さんもよく飲んだし、酒飲みの“あきら”が多かった(笑)」 西村が亡くなってから1年が経ったが、ときおり懐かしみながらも、彼らの心の中に確かに生きていることは、様々なエピソードトークからも伝わる。冒頭の場面に象徴される通り、作曲家・演奏家をはじめ、サポートする主催運営者や出版社など、関わる人間同士による生々しい熱気こそが、体感できる“現代の音楽”の魅力であろう。12月、「四人組」の新作と近作が、彼らの“生き様”と、アクチュアルな“現代の音楽”の何たるかをヴィヴィッドに伝える。左:池辺晋一郎 右:板倉康明取材・文:林 昌英

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