eぶらあぼ 2024.12月号
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32 人間は一人ひとりが違う存在であり、それが救いになるときもあれば、悲しみや争いのもとになることもある。だからこそ、演奏技術や表現力の高さだけではなく、人と人との間にある壁を取り去ってくれるところにも音楽の喜びがある。 10月20日、宇都宮市文化会館で開催された「吹奏楽の甲子園」、第72回全日本吹奏楽コンクール・高等学校の部(全国大会)は、日本の高校生たちの演奏レベルの高さを知らしめるだけでなく、まさに「音と心がひとつになる瞬間」の喜びを感じさせてくれるものだった。 この大会では全国11支部の代表30校が前後半に分かれ、課題曲・自由曲を合計12分以内で演奏する。コンクールは人数によっていくつかの部門に分かれるが、全国大会は55人を上限とするA部門。この部門には国内で約1200校が参加するので、全国大会に出場できるのは40校に1校だ。各校には金・銀・銅のいずれかが与えられる。 自由曲は例年流行があるが、今年はモーリス・ラヴェルの《スペイン狂詩曲》とフィリップ・スパークの《宇宙の音楽》を各3校が取り上げた。 前半の部では、埼玉県立伊奈学園総合高校吹奏楽部がリヒャルト・シュトラウス《「アルプス交響曲」より》を演奏。吹奏楽というと良くも悪くも音量の大きさに注目されてしまうことがあるが、伊奈学の演奏は力みがなく、柔らかくまとまりながら迫力や叙情性を感じさせるものだった(金賞)。 愛知県の愛知工業大学名電高校吹奏楽部の自由曲はフローラン・シュミット《ディオニソスの祭》。吹奏楽コンクールでは1980〜1990年代に頻繁に演奏された「往年の名曲」を、美しい音のブレンドから生み出される倍音豊かな名電サウンドで現代的に仕上げていた(銀賞)。 香川県立坂出高校吹奏楽部は《宇宙の音楽》を演奏。個の技術の高さを見せつけつつ、壮大な宇宙空間を音で描き出した(銅賞)。3年生で部長の十川絢羽さん(サックス)はこう語る。「県大会や四国大会に比べると、みんなのびのびと演奏できたんじゃないかなと思います。自分たち取材・文・写真:オザワ部長(吹奏楽作家)♪♪♪音と心がひとつになる瞬間!「吹奏楽の甲子園」全日本吹奏楽コンクール・高等学校の部レポート

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