eぶらあぼ 2024.12月号
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それでも踊るそれでも踊る者たちのために者たちのために112(MASDANZA)へ行ってきた。 オレが5年前に審査員として呼ばれたときは島の南部の、ほろーんとした劇場だったが、今回は最も栄えている北部の町のオペラハウスで開催されていた。予算が豊富なご様子でうらやましい。 フェス自体は約1ヵ月間やっており、ファミリープログラムやブレイキンの大会など多種多様。オレは3日間行われたコンペティションに多くの海外ディレクターたちと共に招かれた。 同フェスはヨコハマダンスコレクションにも賞を出していて、芸術監督のナタリア・メディナとはもう20年来の付き合いだ。来年30周年を迎えるので大いに盛り上がっていた。 今回もいろいろ強烈な個性の作品が揃ったが、強く印象に残ったのはMitry-Mory『TENGO QUE』である。何というか、ダンスの背景が見えない。ダンスというよりポーズの連続だが、その発想がぶっ飛んでいて、何にも似ていない。膨大な取捨選択を経て創り上げていくタイプのダンサーだ。背は低く骨太で、スマートではないが強引に耳目を集めてしまう。こういう力技のダンサーがフランスから出てくるのが面白い。 それにしても優勝賞金はソロ部門が5000ユーロ(約81万円)、グループ部門が6000ユーロ(約98万円)と、ちょっと桁違いの金額。勢いの違いをまざまざと見せつけられる思いだった。Profileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。「ダンス私塾オンライン」開設。皆様の参加をお待ちしております!乗越たかお第122回 「バッハを知らない音楽評論家!?」と、カナリア諸島にて たとえばシェイクスピア作品を観たことがない演劇評論家や、バッハの曲を聴いたことがない音楽評論家を想像できるだろうか。まずもってあり得ない。が、舞踊評論家の場合、けっこういるかもだ。 クラシック・バレエ(一流バレエ団による全幕もの)や日本舞踊はもちろん、バレエ・リュス作品(いまだに新作の源泉たり得えている作品多数)、あるいはマーサ・グレアムやマース・カニンガムやイヴォンヌ・レイナー(アメリカのモダンダンス、ポスト・モダンダンス)、ローラン・プティやモーリス・ベジャール(モダンバレエと呼ばれバレエの表現をひろげた)、さらにはピナ・バウシュやウィリアム・フォーサイス(ともにダンスに根本的な変革をもたらした巨匠)、そして黎明期から今日まで世界の一線で活躍し続ける舞踏や勅使川原三郎などは押さえておいてほしいものだ。「なぜこのダンスの後にこれが生まれたのか」という知的冒険の足跡として見ると本当に面白いから。 まあ若い世代は「そもそも来日公演自体が少ないし」というかもしれない。しかしベジャール作品は東京バレエ団が上演し続けている。そして「壺中天」という若手公演をしている大駱駝艦、自前のスタジオで実験公演を続けている勅使川原など、探す気があれば安価で観られる機会はいくらでもある。また国内外のアーティストを一度に見られるフェスも秋の「KYOTO EXPERIMENT」、11月・12月には「ヨコハマダンスコレクション」と「YPAM(横浜国際舞台芸術ミーティング)」もある。むろん地理的経済的に難しいこともあろうが、なんなら大きな海外作品を招聘しているアジア各国へ旅行がてら観に行ってほしいものだ。 さて巨匠・大滝詠一が行ったこともないリゾート島を題材に、想像だけで書いた名曲「カナリア諸島にて」で有名なグラン・カナリア島。ここで開催された国際ダンスフェス、スペインのマスダンサ

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