CDCDCDCD108近藤譲:「時の形」「撚り III」「二重奏曲」「静物」シューベルト:ピアノ・ソナタ第18番、幻想曲ヘ短調 他/マウリツィオ・ポリーニ&ダニエレ・ポリーニマーラー:交響曲第7番/佐渡裕&トーンキュンストラー管ラ・フォリア〜狂気のチェロ/中木健二クレッシェンドしたオーケストラによる同じ音をピアノが引き継ぐ。そのまま減衰していくだけのピアノの音。何かが始まるような予感をさせたまま、それが16分にわたって繰り返される。徹底的に切り詰められた素材とコンセプト。それがなんともいえない抒情さえ感じさせる「時の形」を収めた、1983年発売のアルバムの初CD化だ。ハープとギターがユニゾンで演奏し、不思議な立体感で迫る「二重奏曲」なども収録。いずれも、音と音楽の境界のギリギリを攻め、それゆえに音楽の豊かさを素裸のままで出す近藤譲ならではの世界が堪能できる。 (鈴木淳史)51年という長期にわたりドイツ・グラモフォンからアルバムのリリースを続けたマウリツィオ・ポリーニ。その最後の録音となったのはシューベルトで、ピアニストである息子ダニエレとの共作の形を取る。父はソナタ第18番で、朴訥なれど骨太でエネルギッシュな演奏を届け、息子は「楽興の時」で緻密でしなやかな歌心を聴かせる。どちらもシューベルトの音楽性として欠かせない側面を明瞭に表す。そして二人の連弾による傑作「幻想曲」では、まさにその両面が合わさり、晩年のシューベルトの世界を立体的に描く。このアルバムは、ポリーニという巨人が次世代へと継承する芸術の刻印である。(飯田有抄)ついにトーンキュンストラー管の音楽監督として最後のシーズンを迎えた佐渡裕。2019年の5番に始まったマーラー交響曲ライブ録音シリーズもいよいよ大詰め。今年発売された4番と1番に続き、先に配信でリリースされていたウィーン楽友協会での7番(23年2月の公演)がCDで待望の登場。神秘的な2つのナハトムジーク(夜曲)を軸に、森の息吹や鳥の鳴き声を内包するとも、魂や社会が描かれているとも、様々に解釈されるこの奥深い作品を、佐渡は多様な楽器が織りなす細部の響きにこだわりつつ、エネルギッシュな迫力ある演奏で魅せる。 (東端哲也)チェロの達人・中木健二が、無伴奏で「狂気」を問う。人同士のつながりの薄れた現代社会、芸術作品のもつ「狂気」こそが人の魂に訴えかける、という中木の信念のもと、バロックのマラン・マレと20世紀のカサド、リゲティ、黛敏郎の4人による傑作が選ばれた。完璧無比な技巧、一瞬の隙もない熱量。それでいていささかも荒れることなく、品格すら保ちつつタイトにまとめて、チェロの美音を満喫させる。民俗性も豊かな20世紀の3曲は、あえてユニバーサルなスタンスも保ち、普遍性を増している。現代のヴィルトゥオーゾ像のひとつを伝える、圧巻のパフォーマンス。 (林 昌英)近藤譲:時の形、撚り III、二重奏曲、静物高橋アキ(ピアノ) 小林健次(ヴァイオリン) 篠㟢史子(ハープ) 佐藤紀雄(ギター)黒岩英臣(指揮) NHK交響楽団シューベルト:ピアノ・ソナタ第18番、楽興の時、幻想曲マウリツィオ・ポリーニ ダニエレ・ポリーニ(以上ピアノ)マーラー:交響曲第7番佐渡裕(指揮)トーンキュンストラー管弦楽団マラン・マレ(中木健二編):ヴィオール曲集第2巻より「スペインのフォリア 主題と31の変奏」/カサド:無伴奏チェロ組曲/リゲティ:無伴奏チェロ・ソナタ/黛敏郎:BUNRAKU〜無伴奏チェロのための中木健二(チェロ)コジマ録音ALCD-27 ¥3080(税込)ユニバーサル ミュージックUCCG-45108 ¥3300(税込)収録:2023年2月、ウィーン(ライブ)エイベックス・クラシックスAVCL-84170〜1(2枚組) ¥2200(税込)キングレコードKICC-1623 ¥3300(税込)
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