eぶらあぼ 2024.12月号
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CDCDSACDCD106モーツァルト:フルート協奏曲/工藤重典&東京チェンバー・ソロイスツメシアン:時の終わりのための四重奏曲 他/久保田巧&長谷川陽子&亀井良信&廻由美子佐藤俊介とスーアン・チャイ、ピリオド楽器による全集。夫婦でもある二人が初対面で演奏したのが「クロイツェル」。本盤でも求心性の高い優れた演奏。特徴的なのは、第1主題提示直後のフェルマータで、即興的な挿入楽句を加える。他の曲でもそうだが、反復の際には常に変化をつけ、面白く、彩を加味する。ハ短調の第7番のパトスも凄まじい。両者の火花を散らすせめぎ合いは息を呑むほど。第5番「春」も単に美しいだけでなく、速度の対比やリズムの切れ味に新鮮な驚きがある。第10番は後期様式に近づいた、ひょうひょうとした透明な音楽を聴かせる。どの曲も新しい発見があり、楽しめる。とても面白い。(横原千史)収録の全4曲は1990年代以来の録音となろう。しかし音楽は変わらず瑞々しく、若々しい。巨匠芸の重々しいイメージを軽やかに乗り超えた、「あるがまま」のたたずまいがそこにある。そしてよく耳を澄ませば、音域によって音色を変え、人声の濃やかな語り口のニュアンスが伝わってくる。要所ではかつて聴かせた華麗な節回しがきらめく。合奏との一体感も高い。木製フルートも演奏するなど、常に真摯なチャレンジを続けてきた工藤重典という名奏者の、積み重ねてきた年輪が音楽に深みをもたらしている。だがそれは前述の通り、あくまで自然体なのだ。吹き抜けてゆく心地よい風のように。(矢澤孝樹)桐朋学園で教鞭をとる日本の代表的奏者たちが、セッションで録音を行ったメシアンの代表作と、同じ編成で書かれた現代イギリスの作曲家アデスの作品(約10分)のカップリング。最初のアデス作品は、全体の音の綾─特にクラリネット─が美しい。メシアンの方は、先鋭性を強調するよりも、1941年作の室内楽曲としてストレートかつニュアンス豊かに表現されている。繊細で雄弁な亀井のクラリネットが特に素晴らしく、同楽器のみで奏される第3楽章は大きな聴きもの。4楽器が終始ユニゾンで駆け回る第6楽章の音と呼吸の揃い方やしなやかな運びも見事だ。(柴田克彦)広島東洋カープの球団応援歌「それ行けカープ」を作曲した故・宮㟢尚志の次男で作曲家の宮㟢道が、「いつか広響に演奏してもらいたい」と願いつつも亡くなった父の構想に基づいて完成させたのが、2008年初演の「カープ・シンフォニー」。原爆投下により焦土と化した街に終戦わずか4年で誕生した市民球団は、まさに戦後復興の象徴でもあった。5楽章からなる約35分のシンフォニー全編にその歴史が織り込まれ、平和への祈りが込められた響きは、未来への希望も感じさせる。なじみの旋律が登場するたびに、ファンなら感涙必至。広島人のカープ愛・郷土愛に脱帽の一枚。(杉村 泉)ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第1番〜第10番佐藤俊介(ヴァイオリン)スーアン・チャイ(フォルテピアノ)Cobra Records/東京エムプラスCOBRA 0094S(3枚組) ¥5600(税込)モーツァルト:フルート協奏曲第1番、同第2番、フルートと管弦楽のためのアンダンテ、ロンド ニ長調工藤重典(フルート/指揮)東京チェンバー・ソロイスツアデス:歌劇《テンペスト》より「コート・スタディーズ」/メシアン:時の終わりのための四重奏曲久保田巧(ヴァイオリン) 長谷川陽子(チェロ) 亀井良信(クラリネット) 廻由美子(ピアノ)宮﨑道:THE CARP SYMPHONY山下一史(指揮)広島交響楽団収録:2023年2月&2024年2月、紀尾井ホール(ライブ)マイスター・ミュージックMM-4535 ¥3520(税込)妙音舎MYCL-00052 ¥3740(税込)収録:2023年12月、広島文化学園HBGホール(ライブ)広島交響楽団HSOCD0607(完全限定生産盤) ¥2000(税込)BEE1H0VEN ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ全集/佐藤俊介&スーアン・チャイTHE CARP SYMPHONY/山下一史&広響

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