eぶらあぼ 2024.12月号
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5台ピアノの世界/ピアノ・ツィルクスSACDCDCDCD104ハイドン:交響曲集 Vol.25/飯森範親&日本センチュリー響オスカル・メリカント歌曲集/鈴木啓之&玉田裕人ブルックナー:交響曲第6番/尾高忠明&大阪フィル20世紀後半に全曲録音が成立して久しいが、ハイドンの交響曲の全曲演奏は未だ大プロジェクトである。順調に進む飯森の「ハイドンマラソン」からの最新盤には、創作の傾向が異なる3つの時代の作品が収められている。とりわけ印象的なのは「シュトゥルム・ウント・ドラング」時代の短調の作品で、強い表出力を持つ第44番であるが、注目すべきは飯森の安定したアプローチである。21世紀に始まった全集らしく、モダン・オーケストラを用いながらもHIP(歴史的情報に基づいた演奏)を意識した演奏は、ハイドンの交響曲の持つ古典性のみならず、ユーモアや実験性をも敏感に描き出している。(大津 聡)メリカントはシベリウスよりも3歳年下で、ピアノ曲や歌曲を多く書いたことから生前はシベリウスよりも人気があったという。この知られざる作曲家の歌曲から24曲を、フィンランドに学んだバリトンの鈴木啓之が録音した。北国特有の自然の峻厳さ、生と死のコントラストをテーマにした詩句が哀愁を湛えた旋律に乗って歌われ、ピアノは激しくドラマティックに高潮する。これらの曲にはヨーロッパやスラヴ系の言語とは違ったフィンランド語の響きの特性が感じられるが、鈴木の歌声はその特性を柔らかく捉えながらほのかな官能性を添え、ピアノ(玉田裕人)も鮮やかなテクニックで支えている。(江藤光紀)ソリストはもちろん、室内楽奏者としても信頼の厚い白石光隆や中川賢一をはじめ、国内を中心に活躍するピアニストが5人集った「ピアノ・ツィルクス」。りゅーとぴあ(新潟市民芸術文化会館)の企画からはじまった5台ピアノ・アンサンブルは、その迫力あるサウンドと緻密な演奏によって大人気だ。本盤は彼らの音楽の魅力が凝縮したもの。多彩な楽曲が収録されているが、とりわけラヴェルの「ボレロ」とムソルグスキー「展覧会の絵」における色彩の豊かさ、緻密な音型のやりとりに魅了される。オーケストラとはまた違うスケールの大きな世界観を堪能できるはずだ。 (長井進之介)尾高忠明と大阪フィルの東京公演のライブ録音は、冒頭の高弦のリズムと低弦の旋律から“殺気”のような気迫が伝わる。楽団伝統のパワーも存分に発揮しつつ、重厚なイメージには留まらず、むしろ機敏で鋭いサウンド。ギリギリまで推進力を強めながら、本作の特徴である錯綜するリズムは崩れない。豊かな歌心が短いフレーズにまで浸透しているのも見事。クライマックスは雄渾そのもの、アダージョは流れの良さと呼吸の深さを両立、熱い歌に心動かされる。大阪フィル音楽監督就任後、尾高が“巨匠化”するどころか新たな表現のステージに入ったことを実感する。名演。(林 昌英)ハイドン:交響曲第57番、同第44番「悲しみ」、同第72番飯森範親(指揮)日本センチュリー交響楽団オスカル・メリカント:ねんねん坊や、行商人の歌、金のかけら、陽が輝くとき、柔らかく響け 我が悲しみの調べ、火が消え入るように、墓地の小鳥へ、宵の口、歌曲集「墓場から」、ラドガ湖、夕べの鐘 他鈴木啓之(バリトン)玉田裕人(ピアノ)加藤昌則:Five Kings/ホルスト(駒井一輝編):木星/ラヴェル(駒井編):ボレロ/ガーシュウィン(駒井編):ラプソディ・イン・ブルー/ムソルグスキー(駒井編):組曲「展覧会の絵」ピアノ・ツィルクス【白石光隆 田村緑 中川賢一 デュエットゥ かなえ&ゆかり(以上ピアノ)】ブルックナー:交響曲第6番(ノーヴァク版)尾高忠明(指揮)大阪フィルハーモニー交響楽団収録:2020年10月&2022年9月、ザ・シンフォニーホール(ライブ)オクタヴィア・レコードOVCL-00863 ¥3850(税込)録音研究室(レック・ラボ)NIKU-9065 ¥3080(税込)コジマ録音ALCD-7307 ¥3300(税込)収録:2024年1月、サントリーホール(ライブ)フォンテックFOCD9910 ¥3080(税込)

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