eぶらあぼ 2024.11月号
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「2006年に帰国してリサイタルを開催したとき、ふと、日本に住める気がしたんです。ベルリンヘ戻ると帰国準備に取り掛かりました。生徒をたくさん持っていたので、彼らの身の振り方を考えるのが一番大変でした。リーズ国際ピアノコンクールで第2位に入った生徒もいます。彼らの行先を決め、33年のドイツ生活に幕を引いて帰国しましたが、最初のうちは仕事がなかったですね。そのうちに昭和音楽大学から声がかかりました」 今回の記念リサイタルはオール・ショパンだ。 「私の音の歴史を聴いていただくにはショパンが一番かなと。ノアンにも行って深い感銘を受け、ショパンの第一人者、チェルニー=ステファンスカにもみてもらいました。後にお会いしたら優しかったけれど、そのときは怖かったですよ(笑)。 今回は重い曲が多くなりました。op.48の2つのノクターン。バラード第3番。op.59の3つのマズルカ。『英雄西山まりえチェンバロ・リサイタル 12/28(土)13:30 今井館聖書講堂菅 きよみ × 西山まりえデュオ・リサイタル 12/29(日)13:30 今井館聖書講堂問 ムジカキアラ03-6431-8186 https://www.musicachiara.com渡欧50周年 & CDリリース記念 樋口紀美子 ピアノリサイタル11/10(日)14:00 紀尾井ホール問 ミリオンコンサート協会  03-3501-5638http://millionconcert.co.jpCD『樋口紀美子が弾く 「英雄ポロネーズ」』N&FMF25706¥3300(税込) 11月発売63Interview樋口紀美子(ピアノ)歴史が動く瞬間に立ち会ったベルリン時代――渡欧50年を祝して取材・文:萩谷由喜子 1974年に渡欧、33年間もドイツで音楽活動を続けたピアニスト、樋口紀美子。2007年に帰国後も演奏と教育に邁進中だ。2024年はヨーロッパに渡ってからちょうど50年。記念リサイタルに合わせ、CDもリリースする。まずは50年の歩みを振り返ってもらった。 「エッセン国立音楽大学とベルリン芸術大学で勉強してエッセンに4年間、ベルリンに29年間住みました。ベルリン時代の最大の出来事は、1989年11月10日にフィルハーモニーのカンマームジークザールでリサイタルを開いた日のことです。ベルリンでは日本と違って、年中、ピアノ・リサイタルが開かれているわけではないので、ピアノ好きの方が集まります。私はその日、ショパン、ドビュッシー等を弾きましたが、会場の雰囲気が熱くて、カーテンコールに出ていくと『ブラボー!』の大嵐。嬉しいけれど、何でこんなに熱狂してくれるんだろう?と。あとで聞いたら、何と、前の晩からベルリンの壁崩壊が始まっていたんです。だから客席には壁を乗り越えてきた東の人たちもいて、西の人と心を一つにして聴いてくださったのです」 まさに歴史の1ページ。それからもベルリンと日本で定期的にリサイタルを開いてきた。12月28日のチェンバロ・リサイタルでは、バードやスウェーリンクなど後期ルネサンスから18世紀のバッハ、ラモーや珍しいバルバトルまで鍵盤音楽の諸相をたどる。翌29日は、フラウト・トラヴェルソの名手、菅きよみとともに、バッハのフルート・ソナタやオトテール、ルクレールなどフランス・バロック黄金期の美しき陰影に彩られたアンサンブルを。何とも贅沢な2日間となる。西山まりえ ©Naoya Yamaguchi©Studio CACポロネーズ』は、私の母が19歳で樋口家に嫁いだ昭和20(1945)年2月、戦前にワルシャワ駐在陸軍武官だった祖父が万感の思いから母にリクエストした曲。あとは『幻想ポロネーズ』、op.62の2つのノクターン。スケルツォ第4番。CDもリリースします。中身の濃いリサイタルです。ぜひ、おいでください」文:編集部菅 きよみ久保田チェンバロ工房 Presents 新作お披露目会名手二人を迎えて贈る珠玉の調べ親密な空間でルッカース二段鍵盤の豊かな響きを愉しむ 最近、小規模アンサンブルのための演奏会場として、都内でにわかに人気を集めているのが、駒込にある今井館聖書講堂。六義園に隣接する閑静な住宅街にひっそりと佇む、こじんまりとした響きの良い空間だ。かの内村鑑三ゆかりのこのサロンにこのたび、日本を代表する鍵盤楽器製作家、久保田彰によるルッカース・モデル二段鍵盤のフレミッシュ・スタイルのチェンバロが常設される運びとなった。 お披露目を任されたのは、チェンバロとヒストリカル・ハープの二刀流で唯一無二の存在感を放つ西山まりえ。

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