eぶらあぼ 2024.11月号
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11/20(水)19:00 東京文化会館(小)問 プロアルテムジケ03-3943-6677 https://www.proarte.jp51Interview懸田貴嗣(チェロ)チェロ黎明期の重要作曲家コスタンツィに光を当てた貴重なレコーディング取材・文:朝岡 聡 「一般的にチェロの歴史では、ボッケリーニによって高度な技術が生み出されたと言われていたりするのですが、実はそれ以前にナポリやローマのスクールに特筆すべき演奏家がいるのです」と語る懸田貴嗣。盟友のチェンバリスト渡邊孝と組んで録音したコスタンツィ(1704~78)のチェロ・ソナタ集は、多様な刺激に満ちており実に面白い。この人こそボッケリーニの師にしてローマにおけるチェロの演奏技法を格段に進歩させた、という事実が実感できる。 収められた8曲は聴き進むほどに異なる曲想が楽しめるように並べられている。最初の変ロ長調ソナタの冒頭アンダンテでは、穏やかに伸び伸び歌うチェロが印象的。バロックからギャラントな様式への幕開けを告げる心地良い音楽で始まる。「アルバムの冒頭には聴きやすい曲を配置しました。でも、だんだん雲行きが怪しくなって(笑)、3曲目のハ短調と、続くヘ長調になると激しい技巧的な箇所が目立つ内容になります」。 その言葉通り、弦をまたぐ素早い跳躍の連続やダブルストップ、アルペジオ、高音域に駆け上がるようなフレーズなどの超絶技巧が、意表を突くように随所で披露される。じロ短調で書かれたリストの大作ソナタを中井が披露する。ロマン派の傑作ソナタ2作を通じて、両者それぞれの音楽性を堪能したあとは、締めくくりに今年生誕200年のスメタナの「モルダウ」(作曲者による連弾版)が演奏される。中井と武田の音楽が、再び豊かな大河へと合流するという構成だ。深まる秋の夜に、聴き応えたっぷりのプログラムを堪能したい。 共演の渡邊のチェンバロもいつもながら秀逸で、リピート部分や緩徐楽章における右手の装飾の変化と煌めきは格別。5曲目にコスタンツィと同じくローマで活躍したガスパリーニのトッカータがチェンバロ・ソロで演奏され、そのまま同じニ長調の調性で「チェロのためのシンフォニア」の前奏に繋げるあたりは心憎い仕掛けだ。それを含めた後半の3曲は、高度な演奏技法と音楽的内容のバランスが上手くとれた作品を配置。「チェロとチェンバロのみの組み合わせなので、響きに飽きないように、できるだけバラエティに富んだ構成にしたかった」という本CDは、まさにアルバム全体がチェロの縦糸とチェンバロの横糸で紡がれた極上のタペストリーのような美に彩られている。 今回の録音にあたり、コスタンツィの全17曲のチェロ・ソナタの楽譜を各地の図書館等に眠る手稿譜から捜し集め、現代譜に直して約15年かけて全曲を揃えたという。懸田や渡邊の演奏へのアプローチの特徴は、このように時間をかけて歴史に光を当てる姿勢を大切にしている点だ。このCDのジャケットに使用したのは、コスタンツィが勤務した教会にあるカラヴァッジョの「聖マタイの殉教」。そこに描かれる光の鮮やかさは、まさに二人の作品への愛なのだ。左:中井恒仁 右:武田美和子 ©Toshiaki YamadaCD『コスタンツィ チェロ・ソナタ集』コジマ録音ALCD-1225¥3300(税込)文:飯田有抄中井恒仁 & 武田美和子 ピアノ・ソロ&デュオリサイタル ピアノの芸術Vol.8独奏&連弾で堪能するロマン派音楽の粋 「ピアノの芸術」——中井恒仁と武田美和子の演奏を一度でも耳にすれば、この簡潔なタイトルが、いかに“直球力”を持ったものであるかが実感できるだろう。今回で8回目を数えるこのリサイタルシリーズは、毎回ピアノの魅力と奏者の至芸を、壮大なスケール感と緻密な解釈とで聴かせる。今年は1台のピアノによる、充実のソロおよび連弾という内容が楽しみだ。 冒頭はショパンが唯一残した若き日の連弾作品「4手のための変奏曲」で幕を開ける。そこから武田がショパンの世界をソナタ第3番で展開させ、同

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