eぶらあぼ 2024.11月号
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 本番直前になると、緊張で固くなっている部員がいた。副部長でコントラバス担当の「アイリ」こと山本亜依莉はみんなを励ました。「『大丈夫、練習でめっちゃよかったことを思い出してやろうね』と笑顔で声掛けしました」 桜ブラスは15校のうち9番目に出場した。本番の緊張感ゆえか課題曲の出だしで少しズレが出たが、その後は持ち直し、「ダフクロ」では練習してきたとおり自分たちらしさを出せた。 演奏後、木管音楽リーダーでフルート担当の「ナッちゃん」こと小原菜月は不安を感じていた。「うちらがやってきたことは正しかったんかな、という思いがどこかにありました。考えすぎると落ち込むので、『なんとかなるやろ』と思うようにしていました」 表彰式のステージにはコシココが出た。審査結果は金賞。そして、代表5校の発表。桜ブラスの「9番」は飛ばされ、名前を呼ばれなかった。 ステージにいたコシココは一瞬で感情が消えた。「最初は理解できなかったけど、『本当に北陸大会に行けんのや』と思うと壇上で涙が出ました」 アイリは「絶対に他校の前で泣きたくない」と涙をこらえて足早にホールを出た。 金管音楽リーダーでトロンボーン担当の「マミちゃん」こと和田眞美は感情を抑えられなかった。「ホールを出てからバスで学校に帰るまでみんな無言で、私はただただ号泣していました」 バスを降りた部員たちは、門から校舎へ続くきつい坂道を上った。左右に並ぶのは歴代の卒業生が毎年植樹した桜の木々。その枝葉の隙間から真夏の太陽が部員たちに降り注いだ。「やばい。暑い……」と誰かが言った。 それでようやくみんなの表情が少し緩んだ。 楽器を積んだトラックが来た。荷台から打楽器を下ろすとき、コシココは「この楽器を演奏するのも最後なんや」と思うと感情が込み上げてきた。「みんなの前で泣くのはイヤやから、楽器庫に入って泣いて、またみんなのところへ戻りました」 終礼で先生が「この結果は指導者のせいだ」と謝ると、みんな堰を切ったように号泣した。 涙の雨の中、金沢の桜ははかなくも散った。 その2日後、コシココは先生に「音楽室に保護者を呼んで、最後に演奏を聴いてもらいたい」と頼んだ。先生は考えた。北陸大会を見越して8月6日に練習用にホールを押さえている。そこで、急遽ホールを使って「LAST CONCERT〜3年生引退公演〜(練習公開)」を開催することにした。 練習できたのは3日だけ。それでも、3年生の選曲で課題曲・自由曲を含めた12曲を熱演した。 アイリはこう振り返る。「コントラバスの位置からはみんなの顔が見えます。最後に笑顔で『宝島』を演奏するみんなを見て、このメンバーでよかったと幸せを感じました」LAST CONCERT〜3年生引退公演〜(練習公開) 10月20日に開催される全日本吹奏楽コンクールに桜ブラスの姿はない。だが、最後のコンサートではステージ上に「部員たちの笑顔」という花が咲き乱れた。全国大会出場にも決して劣らない、美しく輝く青春の桜が――。43拡大版はぶらあぼONLINEで!→♪♪♪

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