eぶらあぼ 2024.11月号
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N&FNF-25811 ¥3300(税込)CDCDCDCD120「インヴェンションとシンフォニア」を「響きあう創意」と意訳したくなる、そんな一枚だ。エスファハニは前者をクラヴィコード、後者をチェンバロで弾き、かつフィル・アップの小さな前奏曲たち(断片や「運指練習曲」も含む)では両者を楽曲の性格に応じ使い分ける。クラヴィコード演奏に顕著な呼吸感溢れる自在なフレージング、一転チェンバロ演奏の構築的な響き。小さな作品たちがそれぞれ備えている驚くべき小宇宙が、眼前に広がる。これらの楽曲は本当に「教材」なのだろうか? 然り、創意とはこういうもの、と示すという点において、最高の教材なのだ。それを納得させてくれる演奏。(矢澤孝樹)クリストフ・ジョヴァニネッティは、イザイ弦楽四重奏団やエリゼ弦楽四重奏団で、長らく活躍してきた。青柳いづみことは若い頃から共演があるようで、今回はシューベルト19歳の3つのソナタ。出版時のタイトル「ソナチネ」とも呼ばれる。平易で簡潔だが、シューベルトならではの魅力も多く、この二人はそれをうまく引き出している。第1番冒頭の2つの主題は、この作曲家らしい歌が豊かに流れる。終曲のロンドも快活で楽しい。第2番では劇的な第1主題と柔らかで優しい第2主題の対比がよい。冒頭楽章は前半も後半も反復して、微妙な変化も味わえる。第3番緩徐楽章の意表を突いた転調も面白い。(横原千史)ドヴォルザークの「新世界より」は、交響曲の歴史において疑いなく画期的な業績であり、傑作の一つである。が、あまりにポピュラーであるが故に手垢にまみれた演奏が多いことも否めない。その点、西脇とデア・リング東京オーケストラの「新世界より」は全く違う。木管楽器を含む五重奏を複数編成する独自の配置からは、この作品の「お決まり」の響きとは異なる世界が現れる。重厚な弦楽器群や際立つ金管楽器の響きなどのオーケストラのパワーに頼ることなく、スコアに書かれた音楽を各パートが丁寧に演奏しながら固有の音響を引き出そうというコンセプトによって、新たな作品像を描き出している。(大津 聡)温もりを感じさせる新ウィーン楽派の演奏はありそうであまりない。レオンスカヤが巨匠らしい確信をもって、ならではの解釈を披露している。ベルクのソナタはそこここに隠れているロマンの残滓を救い上げながらも過度に溺れず、知と情のバランスを巧みに取りながら進めていく。繊細なタッチで一つひとつの音に色付けを施したウェーベルン(ピアノのための変奏曲)に続き、シェーンベルクでは無調に足を踏み入れていく際の寄る辺ない狂気(3つのピアノ曲、6つのピアノ小品)が、秩序だった形式性(組曲)へと回収される様が描き出される。アルバム全体を通じて大きなドラマが見えてきた。(江藤光紀)ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」/西脇義訓&デア・リング東京オーケストラドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」西脇義訓(指揮)デア・リング東京オーケストラベルク、シェーンベルク、ウェーベルン:ピアノ作品集/エリザーベト・レオンスカヤJ.S.バッハ:7つの小前奏曲、前奏曲(断片) BWV932、インヴェンションとシンフォニア(2声のインヴェンション 3声のシンフォニア)、アップリカティオ BWV994、フーガ BWV953、イエスはわが喜び(断片) BWV753 他マハン・エスファハニ(チェンバロ/クラヴィコード)Hyperion/東京エムプラスJCDA 68448 ¥3500(税込)シューベルト:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ D384,D385,D408クリストフ・ジョヴァニネッティ(ヴァイオリン)青柳いづみこ(ピアノ)ベルク:ピアノ・ソナタ/ウェーベルン:ピアノのための変奏曲/シェーンベルク:3つのピアノ曲、6つのピアノ小品、組曲エリザーベト・レオンスカヤ(ピアノ)コジマ録音ALCD-7304 ¥3300(税込)ワーナーミュージック・ジャパン2173.228826 ¥オープン価格J.S.バッハ:前奏曲、インヴェンション、シンフォニア/マハン・エスファハニ19歳のシューベルト/クリストフ・ジョヴァニネッティ&青柳いづみこ

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