eぶらあぼ 2024.11月号
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CDCDCDCD118葵トリオのシューマン・シリーズ第3弾。ピアノ三重奏曲第3番は、デュッセルドルフ時代の好調ぶりが乗り移ったような情熱的な曲。一方で、晩年特有の錯綜したテクスチュアをもつが、葵トリオはそれらを巧妙に処理して、実に魅力的なものとしている。緩徐楽章の弦の対話は美しく、シューマンの内面を豊かに浮かび上がらせる。フィナーレの跳躍音の主題は、心の葛藤をそのままぶつけているようで、狂気と紙一重であり、息詰まる迫力がある。クララの曲では、第1楽章と第3楽章の主題が甘く優雅でとてもきれい。葵トリオが夫妻の音楽特有のポエジーと魅力をうまく引き出している。 (横原千史)トラックスラーは各国のホールや音楽祭に招聘され、D.オッテンザマーらとの室内楽アルバムでも高く評価されるピアニスト。ウィーン・フィルのピアニストおよびウィーン国立音大教授としても厚い信頼を寄せられている音楽家だ。待望のソロアルバムに選んだのは、シューベルトとリストの作品。シューベルトの「楽興の時」D780は温かくも寂寥感を滲ませ、心に染み入る演奏。リストの「ダンテを読んで」では技巧性の強調を感じさせず、「オーベルマンの谷」では深みある響きで、作品それぞれの規模や世界観を明快に伝える。真のヴィルトゥオーゾであることを証明する一枚だ。(飯田有抄)愛知県立芸大を卒業し、現在は愛知室内オーケストラのメンバーとして日々共演を重ねている5人が結成したクインテット・ポワンティエ。第2弾のディスクは20世紀前・中期に書かれた作品を集めた。冒頭のニールセンからそれぞれの奏者が伸び伸びと演奏しながら、要所は一致団結してまとめていく。そのバランスが絶妙だ。変奏曲の様式感もいい。しっとりと仕上げたホルストに続き、バーバーの「サマー・ミュージック」は抒情性と歯切れの良さが交差して、この曲に名演が一つ加わった。最後はハンガリーの作曲家セルヴァンスキーの鄙びた素朴さを感じさせる佳品を、心地よい推進力で聴かせる。(江藤光紀)かつてラーンキ、コチシュと共に「ハンガリーの三羽烏」と呼ばれたシフも、いまや伝説的な巨匠の域に入ったが、人気、実力を兼ね備えたピアニストとして精力的に活動している。夫人でもある塩川とのデュオはシューベルト、バッハ&ブゾーニ&ベートーヴェンに続くECM3作目として、ブラームスとシューマンがリリースされた。塩川のヴァイオリンはヴィルトゥオージティとは完全に距離をおいた室内楽的なスタイルで、端正で透明感のあるスタイルはロマン派のヴァイオリン・ソナタでも常に貫かれている。長年共演を重ねてきた二人だけにアンサンブルの精度や密度も高く、まさに円熟の境地であろう。(大津 聡)クララ・シューマン:ピアノ三重奏曲シューマン:ピアノ三重奏曲第3番葵トリオ【秋元孝介(ピアノ) 小川響子(ヴァイオリン) 伊東裕(チェロ)】シューベルト:楽興の時/リスト:巡礼の年 第2年「イタリア」より〈ダンテを読んで〉、同第1年「スイス」より〈オーベルマンの谷〉、歌劇《ファウスト》のワルツ(グノー)クリストフ・トラックスラー(ピアノ)ニールセン:木管五重奏曲/ホルスト:木管五重奏曲/バーバー:サマー・ミュージック/セルヴァンスキー:木管五重奏曲第1番クインテット・ポワンティエ【世良法之(フルート) 熊澤杏実(オーボエ/イングリッシュホルン) 芹澤美帆(クラリネット) 野村和代(ファゴット) 向なつき(ホルン)】妙音舎MYCL-00038 ¥3410(税込)ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」/シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第2番塩川悠子(ヴァイオリン)アンドラーシュ・シフ(ピアノ)収録:2024年3月、紀尾井ホール(ライブ)ナミ・レコードWWCC-8016 ¥2750(税込)コジマ録音ALCD-9269 ¥3300(税込)ユニバーサル ミュージックUCCE-2107 ¥3300(税込)葵トリオ《ライヴ at 紀尾井ホール 2024》IIIシューベルト&リスト/クリストフ・トラックスラーポワンティエII―20世紀木管五重奏名曲集―/クインテット・ポワンティエブラームス、シューマン:ヴァイオリン・ソナタ集/塩川悠子&アンドラーシュ・シフ

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