eぶらあぼ 2024.11月号
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113 「気分はカプリッチョ」は、この号で連載100回目を迎える。我ながら信じがたいが、開始は2016年8月号なので、すでに8年以上前になる。当時筆者は、「ドイツ音楽界レポート」的な連載をいくつか持っていたが、海外在住のジャーナリストという立場以外の、より一般的なものを書きたいと考えていた。そこで、半年前くらいから『ぶらあぼ』に打診を始め、一時帰国した際に編集部の方と具体的な話をして、スタートが決まった。当初のコンセプトは、「原稿用紙3枚程度(約1,200字)の長さで、音楽についての小話をする」というものだった。あまり尺のあるものだと書くのが大変だが、この文字数なら続けられるだろう、という目算もあった。 とは言うものの、最初の頃は「優れたホールの条件とは?」、「演奏会のドレスコードは?」といった「ヨーロッパではこうなんですよ」というテーマが多かった。今振り返ると、海外在住者の気取りというか、嫌味な部分もあったと思う。しかしこれは、「毎回新味があるものにしたい」と考えた結果だった。読者が「ああそうなんだ」と思えるようなオチがあれば、それなりに面白いと思ってもらえる。同じ事柄に対して、日本と海外の視点に差があると興味深いし、驚きがあるので、そこに引っ掛けたのである。そうした「普通とは違う切り口」を打ち出す路線は、今でも基本的に変わっていない。同時に、「さらっと軽く読めるものを」という意図もあった。「気分はカプリッチョ(気まぐれ)」という連載名は、その表れである。ちなみにこの題は、当時の担当編集者で企画をサポートしてくれたS氏のアイディアだった。 もっとも実際には、結構重いテーマも多かったと感じている。特にコロナの頃は、演奏会の意味や音楽界の存続についてしつこいくらい繰り返し書いた。ドイツの文化政策を批判したこともあったし、昨今の過剰なポリティカル・コレクトネスを問題視したこともあった。しかし根幹においては、「気分はカプリッチョ」はエンターテインメントである。講談のように、お客さんに楽しんでもらうことを一番の眼目としている。「隠し味」をあえて挙げるとすれば、「問題提起」だろうか。読者がテーマについてさらに考えたり、イメージを膨らませたりするきっかけになれば、それがベストである。書き手としての筆者にとって、「エンターテインメント」は重要なテーマだが、これは知人の作曲家に、「モーツァルトのピアノ協奏曲は素晴らしい。エンターテインメント性とイノヴェーション(新機軸、実験性)が両立している」と言われたことがきっかけである。難しいことを、もったいぶって難解に言う必要はない。面白く言えばいいのである。 というわけで、この連載を支えてくださった編集部の方々、そして何よりも読者の方々に深く感謝したい。まさか200回まで続くということはないと思うが、今後もしばらくお付き合いいただければ幸いである。Profile城所孝吉(きどころ たかよし)1970年生まれ。早稲田大学第一文学部独文専修卒。90年代よりドイツ・ベルリンを拠点に音楽評論家として活躍し、『音楽の友』『レコード芸術』等の雑誌・新聞で執筆する。10年間ベルリン・フィルのメディア部門に在籍した後、現在はレコード会社に勤務。 No.100連載城所孝吉まさかの連載第100回!これまでを振り返って

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