eぶらあぼ 2024.10月号
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64神戸文化ホール開館50周年記念事業ヴェルディ:オペラ《ファルスタッフ》全3幕(イタリア語上演・日本語字幕付)地元ゆかりのアーティストが総力を結集して臨む傑作喜劇 わいわいガヤガヤと人が集う時、そこには自然と「コメディ」の色合いが滲み出る。振られてしょげる者を「よくあることさ」と笑って慰めるさまも、セールで特価品を奪い合う姿も、はたから見れば可笑しいもの。喜劇とは、「他者の最も人間らしいひとこま」を覗き見して悦に入るものなのだ。 それは、舞台芸術でも同じこと。喜劇のオペラを味わう人々は、合唱団と視線を一にする。要は、観客も「世間の目」としてドラマに参加し、演者勢と一体になってドラマを楽しむのだ。「みな、そういうところがあるよね!」と互いを赦しつつ、笑い合うのである。 来る12月、兵庫県の神戸文化ホールが開館50周年の記念事業としてヴェルディの人気作《ファルスタッフ》を上演する。指揮の佐藤正浩(神戸市混声合唱団音楽監督)は先日行われた制作発表記者会見で「合唱団の発案でオペラを取り上げます。神戸市室内管弦楽団も参加しますし、ホールがあってコーラスとオーケストラが居れば、そりゃオペラですよ!」と明るく語り、演出の岩田達宗(神戸市出身)も「太っちょの老騎士ファルスタッフが女性陣からぴしゃりとやられるこのオペラは、『女性が男性をやっつける』ことで、社会の対立を佐藤正浩松田理奈 ©Akira Mutoとになんのためらいもない。2019年のヘ長調ソナタ K.377の特別な思い出もある。「尊敬する清水和音さんと弾くのは、私の人生のご褒美みたいなもの」と語る松田理奈の言葉のとおり。それは優美に満ちたりていたのだ。 初めてのリサイタルから25年を祝う年、こんどは変ロ長調ソナタ K.454か岩田達宗清水和音 ©Mana Mikiら始める。無伴奏では昨年のニ短調に続き、バッハのホ長調パルティータに臨む。結びはフランクのイ長調ソナタ。すべて長調の名作で、バロック、古典派、ロマン派から近代まで旅する豊かな時間。親密なデュオの信頼を通じ、松田理奈の天性がやわらかくひらかれてくる一会となるだろう。文:岸 純信(オペラ研究家)文:青澤隆明黒田 博皆で乗り越える、そんな物語です」と愉し気に抱負を語る。主演の名バリトン黒田博も京都市の生まれ、他のキャスト(合唱団からの起用も多い)も関西で活躍中の実力派ばかり。笑いに貪欲な人々が、「真の朗らかさ」を客席と分かち合う瞬間をお見逃しなく!12/21(土)14:00 神戸文化ホール問 神戸文化ホールプレイガイド078-351-3349 https://www.kobe-bunka.jp/hall/11/4(月・休)14:00 東京オペラシティ コンサートホール問 サンライズプロモーション東京0570-00-3337 https://www.promax.co.jp松田理奈 ヴァイオリン・リサイタル節目のステージは煌めく3つの名曲とともに モーツァルトは親しげにみえる。誰にとっても特別だけれど、しかし誰とでも仲良くしてくれるひとではない。 モーツァルトが心から微笑むことはめずらしい。でも、松田理奈のヴァイオリンはいつだってそのしあわせを連れてくる。清水和音のピアノもそうだ。 素材のよさが際立ち、余計な思いが混ざらない。いっしょに無心になるからだろうが、もちろん心がここに無いのではなく、モーツァルトの気持ちをそのまま生きているからだ。 しかも、松田理奈と清水和音がおなじステージに立つと、その心地よい感興が清らかにひらかれてくる。モーツァルトを大好きであることが、それを傷つけたり汚したり縛ったりすることにならない。なんとしあわせなことだろう。 ちょっとほめすぎではないか、と思われる向きもあるかもしれないが、昨年おなじ場所でふたりが弾くト長調ソナタ K.379を聴いたから、そう言うこ

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