eぶらあぼ 2024.10月号
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第141回 定期演奏会 2025.3/14(金)18:00、3/16(日)14:00 紀尾井ホール問 紀尾井ホールウェブチケット webticket@kioi-hall.or.jp https://kioihall.jp57トレヴァー・ピノック ©Gerard Collettコンスタンティン・クリメル ©Daniela Reskeラゥリーナ・ベンジューナイテ ©Ronan Collett トレヴァー・ピノックが紀尾井ホール室内管弦楽団(KCO)の首席指揮者に就任してから3年目のシーズンを迎えている。このコンビの相性は抜群で、6月定期のシューマン交響曲第1番でも古典的な愉しさとエネルギーにあふれた名演を実現。今シーズン最後の25年3月には、演奏会形式でのモーツァルト《コジ・ファン・トゥッテ》全曲に挑み、彼らの3年間の成果を問う。 ピノックは会見で「いいチャレンジになると思います。今回はヨーロッパと日本の歌手の組み合わせで、最高のピアニストがフォルテピアノを弾きます。いいチームができて、オーケストラもすばらしく、紀尾井ホールも演奏会形式でのオペラ上演に効果的だと思います」と意気込みを示した。アンサンブル・オペラにふさわしい6人の歌手陣と通奏低音奏者がそろった満足感に加えて、オーケストラとホールへの全幅の信頼が伝わる。 フィオルディリージ役のマンディ・フレドリヒは、欧州の歌劇場でバレンボイムやティーレマンとも共演するスターソプラノ。ドラベッラ役は日本とフランスで学び、幅広いレパートリーで22年マンディ・フレドリヒ ©Steffi Hennの同ホールリサイタルが好評を博した湯川亜也子。フェッランド役のマウロ・ペーターはチューリッヒ歌劇場をはじめ欧州で活躍中の若きスター、グリエルモ役のコンスタンティン・クリメルもバイエルン国立歌劇場を中心に活躍するホープで、今春日本デビューを果たした。デスピーナ役は古典的な演目を中心に欧州で舞台を重ねる俊英、ラゥリーナ・ベンジューナイテ。そしてドン・アルフォンソ役は平野和。ウィーン・フォルクスオーパー専属歌手として約500公演に出演してきた、経験豊富な名バスバリトン。 ベンジューナイテとペーターは、紀尾井ホールでピノックと昨年共演。特にベンジューナイテとは世界各地でも共演しており、「女中でありながら全ての人物を操る」と重視するデスピーナ役に信頼厚い歌手を配した。さらにピノックは、今回フォルテピアノでの通奏低音と声楽コーチを務めるペドロ・ベリソの存在も強調。ザルツブルク音楽祭に出演、バルトリからも指名を受けるなど、湯川亜也子マウロ・ペーター ©Christian Felber平野 和 ©武藤 章ペドロ・ベリソ ©Marcel Lennartzモーツァルトのオペラを瑞々しく構築するのに不可欠な名人だ。 そして何より、ピノックの指揮で《コジ》を体験できること自体が、とにかく嬉しい。現在でこそモーツァルトの傑作オペラとして認められる《コジ》だが、その内容や革新性がなかなか受け入れられなかった歴史ももつ。ピノックは「過去でも現在でも重要作です。どの時代においても現代的となるテーマをもっています」と語る。本作ではモーツァルトの筆が冴えわたり、前向きで一途な心情から経験を経てのほろ苦い哀感まで、少しずつ変化していく感情や関係性が、魅力あふれる音楽で隙なく展開していく。笑える場面も多く、馴染みのない方でも楽しめること間違いなし。 25年4月から3年間の首席指揮者任期延長も発表され、26年12月には80歳を迎えるピノック。《コジ・ファン・トゥッテ》というこの上なく人間的な傑作で、本作を愛する世界的名匠がその真髄を示し、愉悦あふれるモーツァルトの真価を明らかにする。文:林 昌英トレヴァー・ピノック(指揮) 紀尾井ホール室内管弦楽団 モーツァルト:歌劇《コジ・ファン・トゥッテ》(演奏会形式)精鋭を揃えて、KCOと満を持して挑むモーツァルトの「重要作」

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