eぶらあぼ 2024.10月号
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36Interviewアンドレアス・シュタイアー(フォルテピアノ)テーマは「数世代にわたる啓蒙主義時代の音楽家たち」 10月末にシュタイアーがやってくる。全国4都市で、自作の現代曲を含めたチェンバロのリサイタル、フォルテピアノによる室内楽とリサイタルという3つのプログラムを披露する。親日家で来日も多いが、とりわけトッパンホールへは定期的に出演し、「シュタイアー・プロジェクト」も13回を越える。6月にライプツィヒのバッハ音楽祭でバッハ・メダルを受賞。8~9月にはワルシャワのリサイタルや、ハンブルク・フィルとのバッハのブランデンブルク協奏曲の弾き振りなど変わらず活発な活動を展開している。そんなシュタイアーにトッパンホールでの2公演について語ってもらった。 まずはバッハ・メダルだ。アーノンクールやコープマンらが受賞した由緒ある音楽賞で、「およそ40年にわたり現代における優れたバッハ解釈者の一人として活動を続け、作品への精神的、知的な洞察力と自らのアイディアを実現する能力」が評価された。お祝いの言葉を述べると「とても嬉しく光栄です。バッハは私が最も尊敬している作曲家ですから」と応えた。 トッパンホールはフォルテピアノによるピアノ三重奏とリサイタル。共演者はヴァイオリンのダニエル・ゼペックとチェロのロエル・ディールティエンス。ともにモダンと古楽器の名手だ。 「私たちはかれこれ17年ほど前から共演しています。音楽的に気が合うだけでなく、人間的にも深く理解し合っている。幸福なことです」 両公演ともカール・フィリップ・エマヌエル・バッハ、モーツァルト、ハイドン、ベートーヴェンの作品。 「他の公演や楽器の選択をふくめ、あれこれ考えていて思いつきました。きっと興味深く聴いていただけると思います。タイトルをつけるとすれば、“数世代にわたる啓蒙主義時代の音楽家たち”かな」 ピアノ三重奏曲は、陽気で才気と機知に富んだC.P.E.バッハの「ソナタ」イ短調、甘美でチャーミングなモーツァルトの第6番、比較的後期のハイドンの変ホ長調、青年ベートーヴェンの第2番。リサイタルは、C.P.E.バッハとモーツァルトの幻想曲、ハイドンによるモーツァルトへのオマージュともいわれる「アンダンテと変奏曲」、シュタイアーが愛奏してやまないベートーヴェンの「バガテル」op.126。「どの曲も私自身の心に近いものです」。 シュタイアーのフォルテピアノは多彩な音色と情感に満ち、新鮮な感銘を与えてくれるが、彼が目指すのは「聴き手に語り掛け、心に響く音楽」。予定されている楽器は19世紀前半のウィーン式アクション。「弦楽器と音量が近いからモダンのピアノよりもより自然アンドレアス・シュタイアー プロジェクト 13・14アンドレアス・シュタイアー(フォルテピアノ) & ダニエル・ゼペック(ヴァイオリン)& ロエル・ディールティエンス(チェロ) 10/26(土)15:00アンドレアス・シュタイアー(フォルテピアノ) 10/28(月)19:00トッパンホール問 トッパンホールチケットセンター03-5840-2222 https://www.toppanhall.com他公演 10/20(日) びわ湖ホール(小)(077-523-7136)    10/27(日) 兵庫県立芸術文化センター(小)(0798-68-0255)    11/2(土) 札幌コンサートホール Kitara(小)(011-520-1234)な表現ができます」。 筆者が注目したいのはC.P.E.バッハだ。1980年代からシュタイアーは積極的に取り上げ、「幻想曲」などで才気煥発にして多感でダイナミックな音楽の魅力を伝えてきた。 「C.P.E.バッハは今でも初めて弾いた時と同じくらい大好きです。その後長年弾き続け、いろいろな作品と出会いましたし、いまでは出版譜もたくさん刊行され、ずいぶん状況が変わりました」 6月にポツダムでシュタイアーのチェンバロ・リサイタルを聴いたが、これまでと同様、音楽に対する明確なイメージを持つとともに、ますます精神的、内面的な深みが出てきた。秋のよき日、シュタイアーがフォルテピアノで奏でる「啓蒙主義時代の音楽家たち」を心ゆくまで楽しみたい。取材・文:那須田 務©Josep Molina

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