eぶらあぼ 2024.10月号
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21取材・文:後藤菜穂子 フィンランド出身の俊英、サントゥ=マティアス・ロウヴァリが、1月にフィルハーモニア管弦楽団を率いて来日する。サロネンの後任として2021年秋より首席指揮者に就き、ロンドンのオーケストラ・シーンを盛り上げてきた。ロウヴァリ自身はパンデミック最初期の2020年2月にエーテボリ響と来日したものの、公演が中止となりそのままとんぼ返りするという不運な出来事もあったので、今回の全国ツアーに意気込みを見せている。日本の舞台に立つのは2017年のタンペレ・フィル以来、ほぼ8年ぶり。 近年、フィンランドから注目の指揮者が多く登場しているが、そのなかでもロウヴァリはユニークで、型にはまらないタイプ。とりわけ打楽器奏者出身であることが彼の音楽家としての資質に関わっている。実際、フィルハーモニア管とのコンサートでも時折打楽器奏者として登場し、観客からも好評だ。 フィルハーモニア管との手応えについて尋ねると、「スケジュールが慌ただしく、すべてにスピードが求められるので、本当に僕のタイプのオーケストラですね。ストレスフルなときもあるけれど楽しい」とにこやかに語る。 「私はリハーサルであまり言葉を用いず、手や体の動きで表現するのですが、奏者たちはその動きをよく読み取って素早く反応してくれるようになりました。私はそういった音楽作りが好きなんです。 昨シーズンは1ヵ月にわたるアメリカ音楽のシリーズをやったのですが、それが私にとってハイライトでした。しかもレイトナイト・コンサートとしてビッグ・バンドでジャズを演奏して、私がドラムスを担当したんですよ! とても評判がよかったので将来またできることを期待しています。一方、この秋は『北欧のサウンドスケープ』をテーマにしたシリーズで、北欧の視点から音楽と自然と環境問題の関係を考えます。フィンランドに住む私にとっても自然や環境問題などは身近なテーマなので、音楽を通してそうした問題提起をすることは意義があると思っています」 日本ツアーでは二人のソリスト、辻井伸行(チャイコフスキー第1番、グリーグ)と三浦文彰(ショスタコーヴィチ第1番、ブルッフ「スコットランド幻想曲」)と共演するほか、シベリウスの交響曲第5番、バルトークの「管弦楽のための協奏曲」他を取り上げる。「これまで日本で演奏してきて、日本のみなさんがシベリウス好きなのを知っているので、一曲はシベリウスにしたいと思いました。交響曲第5番はフィルハーモニア管の得意なレパートリーで、サロネンともよく演奏してきた曲でし、私とも何度もツアーで弾いてきたので、今回は私たちのバージョンでお楽しみいただければと思います。一方、バルトークはオーケストラの技量を魅せることのできる曲で、高い技巧と独特なグルーヴ感をもって演奏してくれるでしょう。私自身、それほど頻繁に指揮する曲ではないのですが、だからこそ新しい試みもできると思っています」 ソリストについては、辻井とは初共演、三浦とは2019年秋にエーテボリで共演している。「三浦さんとはショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番を共演し、クリーンで鮮やかな演奏が印象に残っています。『スコットランド幻想曲』も彼にとても合う作品だと思います」 ロウヴァリはレコーディングも多く、フィルハーモニア管の自主レーベルからは、R.シュトラウス、マーラー、ストラヴィンスキーなど続々とリリースされている。またエーテボリ響とのシベリウス全集もAlphaレーベルから順次リリース中だ(最新盤は第4番と『森の精』他)。同じシベリウスでも、独自の伝統を持つエーテボリ響と、よりフレキシブルな反応をみせるフィルハーモニア管では演奏が異なる、と語る。 最後に、日本の聴衆へのメッセージをもらった。「日本の聴衆のみなさんは最高で、いつもとてもフレンドリーで歓迎してくださいます。フィルハーモニア管は世界でも随一のオーケストラですので、ぜひ私たちの解釈を聴きにいらしてください」Santtu-Matias Rouvali/フィルハーモニア管弦楽団 首席指揮者個性派指揮者が名門フィルハーモニア管の新時代を築くサントゥ=マティアス・ロウヴァリ

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