eぶらあぼ 2024.10月号
137/153

それでも踊るそれでも踊る者たちのために者たちのために134Profileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。「ダンス私塾オンライン」開設。皆様の参加をお待ちしております!乗越たかお第120回 「『ダンスを全て見切った!』という人は、やがてこうなる」 30歳を超えたくらいのダンサーに相応の味が出てモノサシができてくるからだ。今まで手ぶらだった自きて、良くなったねぇと言うと、分が手にした初めての武器。どんな作品でもこのモ「いや、全然ダメです。20代の頃のようなキレではノサシを当ててみれば、たちどころに評価できてし動けなくなりました」まう…… という高揚感で、ある種の全能感にひたれるのである。怖いものはない。自分は真理の扉を開と返ってきたりする。まあ謙遜込みだろうが、たまに本当に落胆している人もいるので、オレはこう言ってける鍵を手に入れたのだ。そりゃもうね、バッサバッやる。サとぶった切りまくる時期が来ますよ。 「気にすることないよ。何も変わってない。君は20 しかしもちろん膨大な数の作品すべてを、たった一本のモノサシで測ろうなど、どだい無茶な話だ。代のときも、だいたい今くらいのキレだったよ。踊っている本人は身体が軽いので速く動けている気にアーティスト達が精魂込めて作った多種多様な作品なるんだろうけど、傍から見ているぶんには、なん群を前に、自分の矮小なモノサシの限界を思い知る日にも、大して、まったく変わってないから安心していが来る。そうして「自分が認識している能力と、実際の能力の違い」に気づいたとき、本当の成長が始まるい。横断歩道などでたまに見かけるだろ、『全速力で走っている風なんだけど全然速くない人』。あれのだ。ただもちろん「いい年こいてまだ一本のモノサと一緒だよ。いまやっと体感と実際の動きのギャッシを得意げに振りかざしている人」もいるけれども。プが補正されてきただけだから、何も心配すること さて多くの協力を得て去年始めた「舞踊評論家はないさ!」【養成→派遣】プログラム」の第2期受講生5名が厳正な審査を経て決定した。これまた20代から50代、 まあだいたい微妙な表情が返ってくるけれども。 この「自分が自覚していることと、実際にできてい学生からバレエダンサー、詩人にライターに教頭先ることの差」というのは、どの世界にもある。もちろん生と、なかなか多彩な顔ぶれである。物書きの世界にもあり、オレ自身にも刺さる言葉だ。 とうぜんまだ「一本のモノサシを振り回している状態」の人もいるが、それは誰しも通る道なので問 舞台評も、若い頃は「これしかない」というものがスパーンと書けた。それは「自分は最短で真実にたど題ない。オレも「いけ好かない若造」としてその道をり着けているからだ」と思っていたが、そうではなかっ通ってきた。これから5ヵ月の講義を経て、成長するた。直感で辿り着ける選択肢が、きわめて限られて彼らをみるのが楽しみである。いただけだった。やがて知識と経験を重ねてくると、思い込みでぶった切るようなものは書けなくなる。そのかわり蓄積された知識と複数の視座に基づいて、ちょっとはマシな評を書けるようになるのである。 思い込みでぶった切れるのは若者の特権だ。とくにダンスを見始めの頃は、自分が何に感動しているのか、その正体もわからない。しかし見続けていくうちに、だんだんわかってくる。自分なりに作品を観る

元のページ  ../index.html#137

このブックを見る