eぶらあぼ 2024.10月号
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SACDCDCDCD124マーラー:交響曲第6番「悲劇的」/ジョナサン・ノット&東響大阪国際室内楽コンクール&フェスタ2023 第1位 記念盤/クァルテット・インダコルートヴィヒ・ミルデ:50の演奏会用練習曲/フィリップ・トゥッツァーショパンの想い出/福間洸太朗ノット&東響は当初からピンと張った糸のような緊張感で、作品を明晰に描き出してきたが、今やそこに以心伝心とでもいうべきスムーズさが加わった。それがよく分かる「悲劇的」だ。冒頭からたっぷりとしたテンポで、フレージングの細部にまでノットの意思が浸透している。極限にまで複雑に編み上げられた対位法的な動きはぶつかりあってエネルギーを消費するのではなく、広がりの中でクリアに交差してエネルギーを絡めとりポテンシャルを高めていく。終楽章でハンマーを5回叩いたのは、溜まりに溜まったこの力を最後に放出させるためだったのだろうか。実にスリリングな演奏だ。(江藤光紀)昨年の大阪国際室内楽コンクールの覇者クァルテット・インダコの優勝記念盤。シューベルトは決勝の曲で、筆者もライブで聴いたが、このCDはさらに素晴らしい。第1楽章はシューベルト晩年の不思議な感覚があり、それを丁寧に彫琢して味わい深い音楽にしている。無限に続くようなしみじみとした第2主題もきれい。緩徐楽章は美しいチェロの歌とぶつけるような楽想の対比が凄い。スケルツォも楽しい。終楽章では彷徨する楽想がとめどなく繰り返される。ヴェーベルンは驚くべき凝縮の世界。最弱音の造形に鳥肌が立つ。チェリストのカロヴァーニの新作はシューベルトへのオマージュ。見事なアルバムだ。(横原千史)19世紀のファゴット奏者ミルデによって作曲され、今日なお広く演奏されているファゴットのための練習曲を、イタリアの気鋭のファゴット奏者トゥッツァーが録音した。演奏会用練習曲はショパンのピアノのためのエチュード等と同様単なる練習曲ではないが、トゥッツァーは卓越した技術を示すのみならず、楽曲ごとに異なる性格を的確に捉えている。大変に聴き応えのあるボリュームで、ファゴットの深々とした音色の魅力を十分に堪能できる。また同練習曲集のこれほど体系的な録音は類を見ないため、とりわけファゴット奏者や学習者にとっては貴重なアルバムであろう。 (大津 聡)ショパンの新たなる名盤の誕生だ。聴き慣れたはずの作品が、これほどまでに鮮烈に説得力を持って届けられるとは。日本デビュー20周年を迎えた福間洸太朗の20枚目のアルバムだ。「もっとも好きな作曲家」ショパンという、ある種の原点に立ち返り、バラード第1番、英雄ポロネーズ、葬送ソナタ、幻想ポロネーズを核に選曲したトータル86分超えの豊潤な1枚。ショパンの苛烈さ、忸怩たる思い、痛切な憧憬を、大きな音楽的うねりと隅々まで行き届いた色彩変化によって描き出す。ぜひとも1曲1曲、丁寧に聴きたい。ショパンとの関わりから20年の歩みを振り返る日本限定の特典冊子も貴重。(飯田有抄)マーラー:交響曲第6番「悲劇的」ジョナサン・ノット(指揮)東京交響楽団シューベルト:弦楽四重奏曲第15番/ヴェーベルン:弦楽四重奏のための5つの楽章/カロヴァーニ:弦楽四重奏曲第10番「In seinem Schatten」クァルテット・インダコ【エレオノーラ・マツノ イダ・ディ・ヴィータ(以上ヴァイオリン) ジャミアング・サンティ(ヴィオラ) コジモ・カロヴァーニ(チェロ)】Da Vinci Classics/東京エムプラスXC 00871 ¥3300(税込)ルートヴィヒ・ミルデ:50の演奏会用練習曲フィリップ・トゥッツァー(ファゴット)ショパン:ワルツ第1番「華麗なる大円舞曲」、バラード第1番、ノクターン第2番、同第20番、ポロネーズ第6番「英雄」、同第7番「幻想」、幻想曲、ピアノ・ソナタ第2番「葬送」福間洸太朗(ピアノ)収録:2023年5月、サントリーホール 他(ライブ)オクタヴィア・レコードOVCL-00854(2枚組) ¥5000(税込)コジマ録音ALCD-9261,9262,9263(3枚組) ¥4840(税込)ナクソス・ジャパンNYCC-27315 ¥2970(税込)

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