eぶらあぼ 2024.09月号
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第642回 定期演奏会 10/9(水)19:00 サントリーホール問 読響チケットセンター0570-00-4390 https://yomikyo.or.jp10/11(金)19:00 浜離宮朝日ホール問 朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990 https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/45 一方、今回チャイの弾くJ.B.シュトライヒャー(1871年製)は、ブラームスが晩年に所有していた楽器とほぼ同型。85鍵とサイズは大きいものの、ハンマーアクションはウィーン式で平行弦。現在のピアノや同時代のイギリス式の楽器とは異なる仄暗く甘い独特なサウンドは、ブラームスら後期ロマン派にふさわしい。佐藤らはロマン派の楽譜の読み方やアゴーギクなどの演奏習慣も研究しているといセバスティアン・ヴァイグレ ©読響に表情を変化させる豊饒なブラームスを奏でてくれること、間違いない。 そして、マエストロがもっとも好きな交響曲だというラフマニノフの交響曲第2番。乾いた色彩を効果的に使って、鮮やかかつ骨太に描くダイナミックな演奏が期待できる。これまでもロシクリスティアン・テツラフ ©Giorgia Bertazziア作品に並々ならぬ意欲を見せてきたヴァイグレの本気度もうかがえよう。 日本をアピールする作品に、ソリストに第一人者を迎えたドイツ王道の協奏曲、そしてヴァイグレの勝負曲たるロシアの交響曲。彼らの「現在」を味わうには絶好のプログラムだ。左:スーアン・チャイ 右:佐藤俊介©Marco Borggreveう。これまでにない新鮮な魅力に富んだ「雨の歌」他が聴けることだろう。文:鈴木淳史セバスティアン・ヴァイグレ(指揮) 読売日本交響楽団渾身のプログラムで感じる充実のコンビネーション 常任指揮者ヴァイグレと読響の蜜月っぷりが止まらない。その成果をヨーロッパの聴衆にアピールすべく、彼らは10月下旬にドイツと英国の8都市を巡る欧州公演ツアーを行う。ベルリンやロンドンなどで披露するプログラムが、この定期公演と名曲シリーズ(10/3)の曲目を組み合わせたものになる。決め技が詰まった演奏会だ。 一曲目は、「サロメ」から〈7つのヴェールの踊り〉。ヴァイグレが得意とするリヒャルト・シュトラウスの作品ではなく、伊福部昭の舞踊曲だ。アルト・フルートによるソロから、ワルツを交えたオスティナートによる狂乱を独特な色彩で描いてくれよう。 続くブラームスのヴァイオリン協奏曲では、ソリストにクリスティアン・テツラフを迎える。かつては怜悧なスタイルで知られたが、近年は作品の内部にぐっと入り込んだ演奏を行うヴァイオリニストとして、ブラームスを弾く。繊細さと力強さが渦巻き、フレーズごと佐藤俊介(ヴァイオリン) × スーアン・チャイ(フォルテピアノ) デュオリサイタルフォルテピアノとガット弦の音色が浮かび上がらせるブラームスの実相文:那須田 務 コンチェルト・ケルンのコンサートマスターなどでバロック・ヴァイオリン奏者として目覚ましい活躍をしている佐藤俊介。近年はロマン派音楽に意欲を示し、2022年には浜離宮朝日ホール他で鈴木秀美、スーアン・チャイの3人でブラームスの室内楽を披露して話題を呼んだ。それからおよそ2年。今度はチャイと、ブラームスのヴァイオリン・ソナタの3曲とヨアヒム、クララ・シューマンのロマンスという作曲家の交友関係を偲ばせるコンサートを行う。 ご存じのように、バロック・ヴァイオリンには羊腸などのガット弦が使われていて、スティール等の人工弦とは、扱いや表現の可能性が違う。実はこのガット弦は20世紀中頃まで使われ、親しまれていた。ブラームスの時代も然り。佐藤はこのガット弦を自在に操って驚くほど多彩な表現を聴かせる。それこそが佐藤が欧州の専門家や愛好家を魅了し続けている理由だ。

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