eぶらあぼ 2024.09月号
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Informationシリーズ杜の響きvol.52 郷古 廉 & ホセ・ガヤルド デュオ・リサイタル11/17(日)14:00 杜のホールはしもと・ホール曲目/チャイコフスキー:「なつかしい土地の思い出」より〈瞑想曲〉op.42-1 シューベルト:幻想曲 ハ長調 D934   ラヴェル:ツィガーヌ フランク:ヴァイオリン・ソナタ イ長調 ■ チケットMove042-742-9999 https://hall-net.or.jp/02hashimoto/26しっくりくる。互いのいろいろなアイディアを試せるし、自分の即興的な部分みたいなものを引き出してくれる。それもただの気分じゃなく、なにか根っこがあって、ちゃんと張り巡らされているうえで、思いもよらぬ自由なものが生まれるという感覚」 「シューベルトの幻想曲は、ピアニストにとっては地獄のように難しい曲で、ヴァイオリニストにとってもそう(笑)。この編成で最高の傑作だと思うし、あれだけの緊張感を演奏者に強いる曲もないから、ホセと弾くのが非常に楽しみです」 トッパンホールでは、シュトラウス、シェーンベルク、ウェーベルン、ブゾーニのソナタ第2番を組み合わせ、独墺音楽の歴史的鉱脈を探っていく。 「シェーンベルクの幻想曲は非常に歪で、弾いていてもなにか石を飲み込んでいるみたいな気持ちになるんですよ。一方ウェーベルンの『4つの小品』は、本当に純度が高い。聴いている人の耳を変える力がある。前から気になっていたブゾーニのソナタも初めて演奏します。歴史的な作曲家だけれど、ちょっとつかみどころがないというか。だからウェーベルンの後に、シェーンベルクとの関係性を考えて採り上げるのは面白いと思って」 杜のホールはしもとでは、チャイコフスキーの瞑想曲、ラヴェルのツィガーヌ、フランクのソナタを多彩に組み合わせ、時代を画すヴィルトゥオーゾに触発された作曲家それぞれの声に迫る。 「音楽だけではなくその楽器、たとえばヴァイオリンで行われるいろいろな技術も、僕はアートだと思っている。イザイの録音などを聴くと、ちょっとびっくりしますよ。ヴァイオリンってこういう楽器だったのか、というふうに思ってしまう。いまの演奏家をみると、音楽に対して真面目な人が多いし、音楽を大切にするのはとても良いことだけれど、その前に楽器の可能性をみんなでもうちょっと探してもいいんじゃないかって、最近すごく考えるんですよ。そういうところからみえてくる音楽性がやっぱりある。とにかく楽器がちゃんとしゃべっていることが、楽器を演奏するからにはいちばん大事。体が出す音という、その感覚をいつも忘れるべきではないと僕は思うから」取材・文:青澤隆明 写真:中村風詩人 郷古廉がいま、とてもいい季節を迎えている。ヴァイオリニストとしての緻密な構築と求道的な姿勢を芯に保ったまま、どこか自ずと滲み出すように、演奏表現の幅や情感の奥行きを広げている。 10代半ばから活躍し、追い求める理想を潔癖なまでに突き詰める志向をみせてきた。それが近年、室内楽での共演者も増え、NHK交響楽団や東京春祭オーケストラのコンサートマスターも担うなか、寛容さも加わり、じんわりと拡幅しているようにみえる。 「いろいろとすごくタイミングよく行っているな、というふうに思います。自分が大切にしていることはむかしから変わっていないけれど、音楽との関わりかたとか、人との関わりかたみたいなものはぜんぜん違う。ちょっと大らかになったし(笑)。20代前半までに、自分の核となるような部分はすごく追求できたから。以前は深く掘っていく感じだったけれど、いまはより深めると同時に広げたい。横にちゃんと自分の中身を広げていきたいという感覚ですね。できるだけのものを受け容れたい。理屈で説明できないようなものもたくさんあるけれど、それはそのまま受け容れようという気持ちにいまはなっているから」 オーケストラでの経験がソロや室内楽で活きてくるのは、具体的にどのような側面だろう? 「室内楽って非常に自由で、なんでもできる。オーケストラにそういう自由はほぼないと言っていい。そのなかで僕が思ったのは、自由であるがゆえに真実から遠ざかることもある。だから逆に、自由に弾けるときに、『本当にこれは必要なことなのか、やるべきことなのかどうか』という考えかたになってくる。音楽の基本には、意外とオーケストラで感じている不自由さみたいなものが大事なんじゃないか。それがいま室内楽やコンチェルトを弾くときのヒントにもなっていますね」 来たる11月には数年来共演を重ねるホセ・ガヤルドとともに、シューベルトの幻想曲を中心に据えた、2様のユニークなプログラムに取り組む。 「彼はピアニストとしてもすごく素晴らしいと思うし、技術も第一級だけれど、同時に即興的な部分をもち合わせていて、そういうバランスが僕はとても

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