eぶらあぼ 2024.09月号
135/149

それでも踊るそれでも踊る者たちのために者たちのために第119回 「フェスと人をアツくつなげるアドバイザー」 8月1日から3日間、韓国の国際ダンスフェスティバル「NEW DANCE FOR ASIA(NDA)」(芸術監督:ユ・ホシク Yu Hosik)へ行ってきた。オレは公式アドバイザーであり名付け親でもあり、フェス内コンペティションの審査員を務めている。同フェスは今回で第13回を迎える。開催地を芸術監督のユ・ホシクの地元である韓国第3の都市・大邱(テグ)に移して以来、「中央」のしがらみから離れて、自由に「世界」とつながることで、クオリティがますます向上しているのだ。 ただ盆地なのでとにかく暑い。フェスの最中にスマホで調べたら大邱は35度、東京36度で、あれ? ヤバいのオレのほうだった? と我が身を振り返るハメに。同席していたシンガポールのディレクターが自国の気温を調べると32度しかなく、「君はずいぶん寒い国から来たんだねえ(赤道間近なのに)」と言われるなど、異常気象が異常すぎることを実感した。 さて今回、日本からは北陸Regionダンスフェスティバルの宝栄美希芸術監督が初めて参加した。オレはこちらの公認アドバイザーも務めており、宝栄とホシクの二人を引き合わせたのだ。宝栄は自身もダンサー兼振付家で、北陸で9年間開催してきたフェスを、今年からレジデンス型の新しい形式に変更したばかり。この新しい挑戦についてはいずれちゃんと書くが、来年は海外からもアーティストを招くため、NDA視察にやってきたのである。しかも生後11ヵ月の愛娘と共に。その志に感銘したスタッフや参加者全員が、この母娘を温かく迎え入れていた。 今回アジア勢はこれまでにない多様な表現と強い存在感を示した。Kim Hee jun『Épuiser』は、ネジのハトメのような、穴の開いた丸い金属をばら撒きながら踊る。衣装には目立たないが多くのポケットがついているのだ。タイトルは「疲れ果てる」という132Profileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。「ダンス私塾オンライン」開設。皆様の参加をお待ちしております!意味のフランス語。身体のすべてを出し尽くそうとするような圧倒的なダンスで、自分が舞台上に存在する意味を示していった。 他にも「幽霊(というか精霊)が宿った花を思わせるオブジェ」が脈打つように踊るChoomna Dance Company『CHANG-GWI-DA!』。ROH YESEUL『Dear』は、白い箱から女性が出てくる「新しい世界に出て行く若者」というありがちなテーマながら、凜とした強さで観客を魅了した。 宝栄のフェスが選んだMarsment『Claim』は、背の大小ある男2人が工務店の作業着を着て、長い木材を持って登場。家の建築をモチーフに人生の幸せをユーモアと体技で見せる異色の作品だった。 とはいえ今回、欧米勢の迫力がとにかくすごかった。OUTRUN THE BEAR『PALACE』は、ロシア人とアメリカ人のカップル。自然に何かを物語ってしまう魅力に溢れた動きで少しホラーな世界を展開する。イタリアのCompagnia Bellanda『Simposio』も男女ペアながらブレイキンをコンテンポラリーに完全に溶け込ませ、無限に続く床の動きが強烈だった。 NDAは「アジアのために」という名のフェスティバルだが、アジアも世界の一部なので、ホットなダンスを求めて様々な交流は深まっていくだろう。どこが本当にアツいのか、行ってみなけりゃわからないのである。乗越たかお

元のページ  ../index.html#135

このブックを見る