eぶらあぼ 2024.8月号
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9/12(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール問 ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 https://www.japanarts.co.jp他公演9/6(金) 愛知県芸術劇場 コンサートホール(クラシック名古屋052-678-5310)9/7(土) 岐阜/大垣市スイトピアセンター 文化ホール(大垣市文化事業団0584-82-2310)9/8(日) ミューザ川崎シンフォニーホール(神奈川芸術協会045-453-5080)9/14(土) 大阪/ザ・シンフォニーホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)9/15(日) 愛媛/西条市総合文化会館(0897-53-5500)56 ブラームスが遺したヴァイオリン・ソナタは3曲。いずれも、40代以降に書かれたソナタで、熟成度、完成度もまったく申し分ない傑作ぞろいだ。さらに作曲の時期によって、それぞれの個性も色濃く出ている。 イタリア旅行から得られたという南国風な明るさと、ブラームスならではの憂愁が交じり合った陰影も豊かな第1番。第2番は、さらに屈託のない美しい旋律に恵まれた作品ながら、その力強い展開も魅力的だ。 そして、第3番は内面的で、寂寥感が全体を覆いつつ、穏やかな諦念の前兆もうかがえる。さらに、そのスケール感により、3曲のソナタを締めくくるのにふさわしい作品でもある。 サイズ的にも、そして内容の充実度も、チクルスとして一夜のリサイタルで取り上げやすいプログラムといっていい。 デビュー以来、旺盛な活動を続けてきたヴァイオリニスト諏訪内晶子が、この「ブラームス・チクルス」を手がけるのは、もちろん今回が初めてではない。最近では、去年9月に、エフゲニ・ボジャノフとの共演で全国ツアーを行ったばかり。その直後、2人はデュッセルドルフでレコーディングも行い、デッカ・レーベルよりCDもリリースされている。 このところ諏訪内のブラームスへの想いは強いようだ。2022年には、彼女自身が芸術監督を務める「国際音楽祭諏訪内晶子 ©Marco BorggreveNIPPON」で、ブラームスの室内楽マラソン・コンサートを実施。ソナタと弦楽四重奏以外の室内楽作品を取り上げ、自らもメンバーの1人として演奏に参加した。同音楽祭の別プログラムでは、尾高忠明指揮NHK交響楽団とともにヴァイオリン協奏曲を演奏している。 つねに作品と真摯に向きあってきた諏訪内のヴァイオリン。ブラームスの音楽のもつ内面性や奥行きの深さに踏み入った演奏を聴かせてくれる。 ボジャノフとの共演による最新録音を聴いても、とにかくフレーズのすみずみまで丁寧に歌を宿らせる。細やかなヴィブラートを使い分け、多彩なニュアンスをじっくりと表出していく。 とりわけ第3番の冒頭楽章や終楽章などでは、生々しいまでの表現を作品から引き出す。落ち着いた客観的なアプローチを崩さないといったイメージの強い諏訪内が、ここまで踏み込んだ音楽を聴かせてくれるのは、やはりブラームスという作曲家の魔力といっていいのではないか。まるで感情のチューニングがぴたりと合ったように。オライオン・ワイス ©Lisa-Marie Mazzucco そして、3曲のソナタが三幅対として人生そのものを描いたように思わせてくれるのも、彼女のブラームス演奏の魅力なのかもしれない。すなわち第1番は若き日のことを回想するような甘さと苦味が交錯し、第2番は現在を生きる喜びを謳歌、第3番では死や衰退を意識しつつ、静かに未来を見つめるといったように。 今回のチクルス公演のパートナーを務めるのは、オライオン・ワイス。室内楽を得意とするアメリカ人ピアニストだ。10年ほど前にリリースされた、ヴァイオリン奏者アルノー・シュスマンとの「ブラームス・チクルス」のディスクがあり、2018年にはブラームスの「シューマンの主題による変奏曲」などもレコーディングしている。この作曲家にふさわしい、細やかで理知的なアプローチながら、ニュアンス深い演奏を聴かせてくれる。 諏訪内とワイスというコンビが、ブラームスの作品から、いかなる人生の色彩を導きだすのか。その表現の深さに期待したい。文:鈴木淳史諏訪内晶子(ヴァイオリン) & オライオン・ワイス(ピアノ)デュオ・リサイタルヴィルトゥオーゾが誘う深淵

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