eぶらあぼ 2024.8月号
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49野平一郎プロデュースフェスティヴァル・ランタンポレル ~時代を超える音楽~古典と現代がクロスオーバーする刺激的な音楽祭が誕生! 2021年より東京文化会館の音楽監督を務める野平一郎が、同館が培ってきた若手のキャリアアップ支援や舞台芸術創造事業を束ね、異色の音楽祭「フェスティヴァル・ランタンポレル」を立ち上げる。古典と現代を多層的にぶつけることで新しい音楽体験を提供するこのフェスティヴァル、第1回は同館の小ホールを舞台に11月27日から12月1日にかけて行われる。 まずプログラミング・コンセプトがユニークだ。各演奏会はベートーヴェン×マヌリとシューベルト×ラッヘンマンという二組の作曲家の作品で構成される。フランスのフィリップ・マヌリはエレクトロニクスなど時代の最新技術をたゆまず作曲に応用してきた。一方、ドイツのヘルムート・ラッヘンマンは特殊奏法やノイズを使って刺激的な創作を続けている。いずれも現代音楽界を代表する重鎮だ。新しさを追い求め続けたベートーヴェン、抒情的なシューベルトの音楽とどのような化学反応を起こすのか。 古典と現代の交錯というテーマは、使用楽器にも表れている。本フェスティヴァルは仏・ニームのレ・ヴォルク音楽祭と連携しているが、その音楽監督キャロル・ロト=ドファンはピリオド楽器によるオーケストラ「レ・シエクル」のメンバー。彼女は今回レ・ヴォルク弦楽三重奏団のヴィオリストとして来日(ヴァイオリン:オード・ペラン=デュロー、チェロ:ロビン・マイケル)、フェスティヴァルのオープニング(11/27)にマヌリのトリオなどとともに、ピリオド楽器を用いてベートーヴェンの弦楽三重奏曲 op.9-3を披露。またマヌリ作品にはアルトフルートの上野由恵やエレクトロニクスの今井慎太郎も参加する。 ピアノ界は若手の群雄割拠の時代を迎えているが、そのフロントランナーである阪田知樹(シャイニング・シリーズVol.16、11/28)と務川慧悟(同Vol.17、11/30)の二人が、テーマに合わせたプログラミングだけでなく、ピアノとフォルテピアノの弾き分けにチャレンジするのにも注目だ。阪田はマヌリの第2ソナタ「変奏曲」にベートーヴェンの「ディアベリ変奏曲」をぶつける。務川は冒頭にシューベルトのドイツ舞曲 D643-1に基づくラッヘンマンの「シューベルトの主題による5つの変奏曲」を置き、シューベルトのソナタ第19番で締めくくる。作品のみならず楽器の時代性をも対比させるという野平からの難しい問いかけに、若き才能たちがどんな回答を示すのか。 時空を超えた交錯というテーマに関しては、映像とのコラボレーションも見逃せない(11/29)。1926年、大正から昭和へと元号が移り変わる年に公開された無声映画『狂った一頁』(監督:衣笠貞之助)は、幼い子どもを失ったショックから精神病院に入った妻を、夫が病院の小使になって救出しようとする物語。原作・脚本は川端康成、撮影には円谷英二が参加し、患者たちの異様な行動や主人公の妄想が、斬新なカメラワークやショット構成で描き出される。大正アヴァンギャルド運動が世界的な水準にあったことを示すこの幻の傑作に、作曲家・平野真由とパリの音響研究機関IRCAM(イルカム)が音楽11/27(水)~12/1(日) 東京文化会館(小)セット券:7/20(土) 1回券:7/27(土)発売問 東京文化会館チケットサービス03-5685-0650 https://www.t-bunka.jp※フェスティヴァルの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。野平一郎 ©YOKO SHIMAZAKIフィリップ・マヌリ ©Tomoko Hidakiオード・ペラン=デュロー阪田知樹 ©Ayustetキャロル・ロト=ドファンロビン・マイケル務川慧悟 ©Yuji Ueno上野由恵 ©武藤 章平野真由を付けた。約100年前に描かれた狂気に現代の電子音が肉薄する。 フェスティヴァルの最終日(12/1)には、レ・ヴォルク弦楽三重奏団が、東京文化会館が主催している東京音楽コンクールの入賞者を中心とした東京文化会館チェンバーオーケストラのメンバーと共演する。第18回でピアノ部門最高位を取った大崎由貴をはじめ、一線で活躍するプレイヤーたちがラッヘンマンの室内楽作品とシューベルト晩年の大作「八重奏曲」を演奏し、このユニークな音楽祭は締めくくられる。 現代音楽の研究者である沼野雄司が2つの演奏会に出演し、ナビゲート(11/27)やプレトーク(12/1)で聴きどころなどを解説してくれるほか、11月30日のトークセッションでは、マヌリや野平が自作やフェスティヴァルの意図についても語ってくれるだろう。多彩なラインナップであなたの知性を刺激する日々がはじまる。文:江藤光紀

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