eぶらあぼ 2024.8月号
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114シェヘラザード、はげ山の一夜/アントニオ・パッパーノ&サンタ・チェチーリア国立アカデミー管歌う旅路 ̶Voyage lyrique à deux/周防亮介&酒井有彩近藤譲:ブルームフィールド氏の間化ハイドン 弦楽四重奏曲 作品33-1&バルトーク 同第2番/クァルテット・インテグラドラマ作りの巧みな名匠パッパーノが、2005年から音楽監督を務めるイタリアの名門楽団を指揮した、リムスキー=コルサコフとムソルグスキーの有名曲のカップリング。ただし「はげ山の一夜」を、一般的なR=コルサコフ版ではなく、作曲者本来の質感が保たれた1867年原典版と1880年の声楽付版で収録している点がポイントだ。「シェヘラザード」は、濃厚・濃密にして劇的でスケールが大きな快演。各楽器のソロの雄弁さも光っている。「はげ山~」は、荒々しい生命力に溢れた原典版が本盤最大の聴きもの。新鮮かつ鮮烈な声楽付版も十分に刺激的だ。    (柴田克彦)近年顕著な深化を見せているヴァイオリニスト周防亮介が、時代も国も飛び越え、多彩な様式の楽曲に取り組む。彼の以前の無伴奏アルバムでも「これが21世紀のヴィルトゥオーゾか」と感じたが、当盤では卓越した名技がますます自然体でしなやかに発揮され、難曲でも美と品格を保ちつつ、追い込みの激しさも備える。名品が並んだ後、レアなヴィエニャフスキ「ファウスト幻想曲」をこの水準で聴けるのもうれしい。充実の度を深める酒井有彩のピアノも、低音を大切にしながら多様な世界観を構築。2曲収録のピアノ小品の情趣、とくにショパンは重みある感動を引き出し秀逸。(林 昌英)コジマ録音は10年前に近藤譲の出世作となったLP『線の音楽』(1974年発売)をCD化したが、今度は創業50周年記念盤として『ブルームフィールド氏の間化』(76年発売)をリイシュー。本盤は熱い前衛の時代が過ぎ、シンプルでクールなものを求めだす時代の空気を閉じ込めている。弦楽器がグリッサンドで動く表題作は電子音楽への風刺のようだし、単純なアイディアや限られた素材を展開する「視覚リズム法」「歩く」には、とぼけたような冷めた知性がある。「夏の日々」は録音された生活音の影にクラリネットのソロを潜ませる。生真面目な作曲家と思っていたが、実は大らかなユーモアのある人かもしれない。(江藤光紀)すでに国際的な評価を高めてきたクァルテット・インテグラ、2枚目のCDは今年1月に行われたフィリアホールでのライブから(もう1曲は山崎伸子を迎えてのシューベルトの弦楽五重奏曲だった)。選ばれたハイドンとバルトークの作品は、メンバーの解説によれば「推移」という要素で共通している。強固にかみ合った4声が、それぞれの曲を特徴づける移ろいゆく楽想と感情に高いエネルギーを注入し、雄渾な流れをつくる。チェロがパク・イェウンに代わったばかりだが、アンサンブルの一体感と精度にまったく不足を感じない。4人もまた、新たなステージに向かう力強い「推移」のただ中にいる。(矢澤孝樹)リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェヘラザード」/ムソルグスキー:音詩「はげ山における聖ヨハネ祭前夜」(1867年原典版)、歌劇《ソローチンツィの市》より「若者の夢」(1880年版)(1930年V.シェバリーンによるオーケストレーション版)アントニオ・パッパーノ(指揮)サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団 他ワーナーミュージック・ジャパンWPCS-13851 ¥3300(税込)ヴィターリ:シャコンヌ/パガニーニ:カンタービレ/サラサーテ:カルメン幻想曲/アルベニス(ゴドフスキー編):タンゴ(ピアノソロ)/ラヴェル:ツィガーヌ/ショパン:ノクターン op.48-1(ピアノソロ)/ヴィエニャフスキ:グノーの《ファウスト》による華麗なる幻想曲 他周防亮介(ヴァイオリン)酒井有彩(ピアノ)オクタヴィア・レコードOVCL-00843 ¥3850(税込)近藤譲:ブルームフィールド氏の間化、視覚リズム法、夏の日々、歩く川崎雅夫 山口裕之(以上ヴァイオリン) 安永徹(ヴィオラ) 毛利伯郎(チェロ) 高橋アキ(ピアノ) 鈴木良昭(クラリネット) 甲斐道雄(フルート)ハイドン:弦楽四重奏曲 op.33-1バルトーク:弦楽四重奏曲第2番クァルテット・インテグラ【三澤響果 菊野凜太郎(以上ヴァイオリン) 山本一輝(ヴィオラ) パク・イェウン(チェロ)】収録:1973年3月、上智大学講堂(ライブ) 他コジマ録音ALCD-13 ¥3080(税込)収録:2024年1月、フィリアホール(ライブ)ナミ・レコードWWCC-8013 ¥3300(税込)SACDSACDCDCD

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