45Interview阪 哲朗(山形交響楽団常任指揮者) ベートーヴェン全曲演奏がついに完結、そして新しい山響サウンドを求めて取材・文:長井進之介 「山響」の愛称で親しまれ、2022年に創立50周年を迎えた山形交響楽団。「食と温泉の国」山形で地元民に愛され、“ここでしか聴くことのできない響き”を届けるべく多彩な活動を展開している。コロナ禍においても先進的な試みによって強い存在感を示し、音楽を止めることなく響かせ続けてきた同楽団は、2024年も意欲的なラインナップの演奏会を行う。今回は常任指揮者の阪哲朗に7月と9月の演奏会について尋ねた。 「7月21日はやまぎん県民ホールでは初めてとなる『第九』を演奏します。山形を世界に届けるための基軸、そしてシンボルのような公演を目指し、アジア各国からソリストをお招きしました。韓国のコ・ヒュナ(ソプラノ)に台湾のワン・ユーシン(メゾソプラノ)、中国からゴン・インジャ(テノール)、そして日本の平野和(バスバリトン)という、私が厚い信頼を置いている歌手たちが揃いました」 平野は近年目覚ましい活躍を見せている日本のバスバリトンだが、他の出演者についてはどのような魅力があるのだろう。 「皆さん持っていらっしゃる声が素晴らしいのはもちろんですが、様々な舞台を踏んでの経験と表現の多彩さがあります。特に『第九』は声と言葉への感覚が求められるので、今回のソリストをお呼びできたことはとてもうれしいですね。ご一緒するのは久しぶりなので、進化した皆さんの歌唱をお届けできることがいまからとても楽しみです。 合唱の山響アマデウスコアとは先日リハーサルをしたばかりですが、ドイツ語の発音が美しく、言葉から音楽をつくっていることがよくわかる演奏です。やまぎん県民ホールの響きのよさもあいまって、『第九』の魅力をより深く味わっていただける公演になると思います」 今回の「第九」で、2020年にスタートした阪と山響によるベートーヴェンの交響曲全曲演奏会が完結する。世界的に音楽活動をすることが厳しい状況の中で、阪と山響は妥協することなく芸術的対話を深め、より強固な関係を築き上げてきた。その集大成をぜひ聴き届けてほしい。 そして9月7日、8日には“トランペット界のパガニーニ”とも評されるセルゲイ・ナカリャコフを迎えての第319回定期演奏会が行われる。 「山響はこれまで、第一線で活躍するアーティストと共演することで成長してきましたが、これまでトランペットの名手と共演する機会がありませんでした。今回は幸いにも最高の奏者をお招きすることができました。アルチュニアンのトランペット協奏曲は、技術はもちろん、旋律の美しさも魅力的な楽曲で、彼の音楽性を存分に味わっていただけると思います」 さらに山本菜摘による委嘱新作やチャイコフスキーの傑作、交響曲第6番「悲愴」も演奏される。山形交響楽団特別演奏会 やまぎん県民ホールシリーズ2024 Vol.2「第九」7/21(日)15:00 山形/やまぎん県民ホール第319回 定期演奏会 9/7(土)19:00、9/8(日)15:00 山形テルサホール問 山響チケットサービス023-616-6607 https://www.yamakyo.or.jp©Kazuhiko Suzuki 「山響委嘱新作の世界初演は、2022年から定期的に行っているものです。若い日本の作曲家を応援するという目的とともに、オーケストラ、そしてお客様が新しい作品に触れる機会を増やしていきたいという想いが込められています。チャイコフスキーの『悲愴』は、いまの山響がやるべき楽曲だと判断しました。10型の編成で演奏する機会がそう多くないこともあり、今回この曲を演奏することでこれまでになかった視点や音色の広がりなど、新しい山響サウンドを作り出していくことができるはずです」 あくなき探求心と多くの人々に音楽を届けたいという強い想いから、革新的な試みやプログラムが生まれ進化し続ける阪と山響。今回の演奏会はそれを体感するまたとない機会となることだろう。
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