eぶらあぼ 2024.7月号
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114ルネサンスとバロックの境目で、神秘の霧に包まれた北方の巨人。スヴェーリンクのこうしたイメージは、オルガン演奏によるところが大きい。だがチェンバロだと、違う顔が見えてくる。親しい友に囲まれ、室内で妙技を繰り広げる姿。辰巳美納子の演奏からは、そんなスヴェーリンク像が立ち上がる。トッカータで粒立ちよくパッセージを転がし、当時よく知られた旋律を鮮やかに変奏し、ファンタジアで対位法の綾を果てしなく広げてゆく。音楽の歩みはあくまで慌てず騒がず、ルッカース・モデルの名器が存分に鳴る。辰巳本人の充実した解説にも導かれ、いつの間にか17世紀アムステルダムの夜。(矢澤孝樹)なんともあたたかく、なつかしい気持ちになるマーラー。佐渡裕とオーストリアの手兵による交響曲第1番のライブ録音は、最終稿の4つの楽章に、第2稿まで残っていた「花の章」を2番目に加えたもの。機能性重視の演奏ではないのに、細かいバランス調整が行き届き、埋もれがちなモティーフも明らかになる。刺々しい音がなく、ローカルなカラーを残した木管の音色と弾んだ歌に、聴きながら思わず笑顔になる。金管やティンパニの音も同様。オーケストラの個性と佐渡のコントロールの合致した好演だ。最終稿で省かれたタイトル「巨人」を使用しない見識も支持したい。 (林 昌英)欧州中心に長年活躍してきたメゾソプラノの小泉弥生が、喜寿を記念するアルバムをリリースした。日本歌曲を中心に、しみじみとした情緒をしっとりと歌いあげている。山田耕筰「AIYANの歌」は、北原白秋の詩の柳河方言が独特の余韻を醸し出す。遊女のもの思いや子守女のいじらしさを、小泉の歌がさらっと掬い上げる。〈曼珠沙華〉では、血のようなひがんばなを7歳のお嬢様が折りしだく。怖ろしい情景。「六つの俳句」は、バスのウルセンとの二重唱で、芭蕉らの俳句を日本語とノルウェー語で歌う。クヴァルンドックの曲は、時に不思議、時に不気味な響きで二言語が交じり合う。味わい深い歌曲集。(横原千史)名手・福川伸陽の呼びかけで日本屈指のスター・ホルン奏者が各楽団から集結して生まれた、あの究極のアンサンブルがCDで復活。ピアノとパーカッションを味方に、吹奏楽の定番曲からオーケストラの名曲、アニメ&映画の人気曲まで“分厚い”サウンドでゴージャスに披露。ただ勇壮なだけでなく、組曲「天空の城ラピュタ」(大橋晃一編)では柔らかな響きが久石譲の描き出す宮崎駿の世界観に見事共鳴。16本のホルンが参加した荘厳なミュージカル「オペラ座の怪人」セレクション(同編)でも、各曲の美しいフレーズが歌心に溢れつつ再現されているのが聴きどころだ。 (東端哲也)スヴェーリンク:モレ・パラティーノ/宮廷のスタイルで、トッカータ ニ調、同イ調、同ト調、ポーリッシュ・ダンス、イングリッシュ・フォーチュン、ファンタジア・クロマティカ、涙のパヴァーヌ、緑の菩提樹の下で、我が若き命は終わった、ヘクサコード・ファンタジア辰巳美納子(チェンバロ)マーラー:交響曲第1番佐渡裕(指揮)トーンキュンストラー管弦楽団三善晃:四つの秋の歌/山田耕筰:AIYANの歌/福島雄次郎:民謡「わがふるさとの歌」より〈子守女の唄〉〈おざや節〉/橋本国彦:舞/ギスレ・クヴァルンドック:6 Haiku sanger 六つの俳句 他小泉弥生(メゾソプラノ)左近允亜紀子(ピアノ)フルーデ・ウルセン(バス)収録:2006年4月、トッパンホール(ライブ) 他ナミ・レコードWWCC-8012 ¥3080(税込)コジマ録音ALCD-1222 ¥3300(税込)収録:2023年3月、ウィーン(ライブ)エイベックス・クラシックスAVCL-84159 ¥2200(税込)A.リード(小林健太郎編):エル・カミーノ・レアル/久石譲(大橋晃一編):組曲「天空の城ラピュタ」より/シベリウス(庄司燦編):交響詩「フィンランディア」/A.L.ウェバー(大橋編):ミュージカル「オペラ座の怪人」セレクション 他福川伸陽 今井仁志 上間善之 西條貴人 高橋臣宜 竹村淳司 日橋辰朗 信末碩才 坂東裕香 栁谷信(以上ホルン) 他キングレコードKICC 1615 ¥3300(税込)スヴェーリンク鍵盤作品集/辰巳美納子マーラー:交響曲第1番/佐渡裕&トーンキュンストラー管日本のしらべ/小泉弥生福川伸陽 with ジャパンホルンサウンドCDCDCDCD

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