eぶらあぼ 2024.7月号
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112モーツァルト・シンガーズ・ジャパン(MSJ)は、2018年のデビュー以降、一年に一作のペースでモーツァルトのオペラに取り組んできた。当該盤は《フィガロの結婚》以来約2年半ぶりのリリース。未完の《ツァイーデ》の演奏機会は少なく、タイトルロールのアリア〈やすらかにお休み、私のいとしい命よ〉がショーピースとして取り上げられるに過ぎない。しかし同作では作曲家がマンハイム滞在中に接した「メロドラマ」(メローロゴ)の形式をとっている点が見逃せない。MSJによる録音は、ピアノ伴奏による演奏ながらドラマの骨格を維持し、各登場人物の性格や感情を巧みに描き出している。(大津 聡)日本を代表する名手が、20世紀に作曲されたギターの名作を収録したアルバム。「讃歌」と付された作品が並ぶ内容は、パガニーニ、シューベルト、ショパン、ボッケリーニへのオマージュであると同時に、被献呈者である巨匠セゴビアへのオマージュにもなっており、さらにアルバム自体は福田の恩師ギリアに捧げられている。演奏自体も、こうした先人へのリスペクトを反映した細心かつ堂々たるもの。存分にテクニカルながらも雄弁な名奏の数々は、主軸のテデスコ作品をはじめ、どれも聴き応え十分で、ギターの世界内にとどまらない“音楽の魅力”に富んでいる。 (柴田克彦)2000年生まれの若手指揮者のデビュー盤。20代半ばにして、ラトビア国立響の音楽・芸術監督などに就く逸材だ。その彼が首席客演指揮者を務めるドイツ・カンマーフィルを指揮したモーツァルトの3つの交響曲。生まれたときからピリオド演奏が当たり前の世代ならではの加速感でキビキビと動き、そこに自由さも羽ばたかせる。「ハフナー」交響曲は、主題が出るたびに装飾音を加えたりと、ロココ風味全開。第40番は、精悍にして扇情的。「リンツ」交響曲も、若々しい運びのなかに優雅な味わいも。それぞれのメヌエット楽章のトリオでの遊び心に満ちた表現もたまらない。(鈴木淳史)4手連弾の名曲集、というアルバムは意外に少ない。名手アレクサンドル・タローがそれをつくったというだけでも驚きだが、22トラックの相方が全員違う!それもラナ、メルニコフ、ダルベルト、児玉桃、アンゲリッシュ、オラフソン、シャマユらすごい顔ぶれ、G.カピュソンやジャルスキーまで名を連ねている。近年のポピュラー系アルバムだとゲストを呼ぶことも多いが、これほどの企画は空前絶後。曲目もハイドンからグラスまで多彩で、共演者がその個性を保ちつつ、タローとの楽しい「会話」に興じているのが微笑ましい。最高のパーティー・アルバム。それにしても一人、“Mr Nobody”って誰だろう?(矢澤孝樹)モーツァルト:歌劇「ツァイーデ」/モーツァルト・シンガーズ・ジャパンモーツァルト:歌劇《ツァイーデ》針生美智子(ソプラノ) 望月哲也 村上公太 澤原行正 栗田宰早 盛合匠(以上テノール) 宮本益光 菅沢雄星(以上バリトン) 加藤宏隆(バスバリトン) 髙田恵子(ピアノ)悪魔の奇想曲/福田進一モーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」・第36番「リンツ」・第40番/タルモ・ペルトコスキ&ドイツ・カンマーフィルモーツァルト:交響曲第35番「ハフナー」、同第36番「リンツ」、同第40番タルモ・ペルトコスキ(指揮)ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団フォーハンズ〜4手のための作品集/アレクサンドル・タロー&フレンズM.カステルヌオーヴォ=テデスコ:悪魔の奇想曲〜パガニーニ讃歌、ソナタ〜ボッケリーニ讃歌、セゴビアの名によるトナディーリャ/ポンセ:ソナタ・ロマンティカ〜シューベルト讃歌/タンスマン:バラード〜ショパン讃歌/ルーセル:セゴビア福田進一(ギター)オクタヴィア・レコードOVCL-00833 ¥3850(税込)マイスター・ミュージックMM-4530 ¥3520(税込)ユニバーサル ミュージックUCCG-45094 ¥3080(税込)ピアソラ(山本京子編):リベルタンゴ(共演:B.ラナ)/サティ:組曲「パラード」より〈中国の手品師〉(共演:G.カピュソン)/ハイドン(R.メッツドルフ編):ピアノ三重奏曲第39番より第3楽章(共演:児玉桃)/シャルル=アンリ:「3足す3は?」より〈The Just Average〉(共演:“Mr Nobody”) 他アレクサンドル・タロー(ピアノ) 他ERATO/ワーナーミュージック・ジャパン5419.793352 ¥オープン価格SACDCDCDCD

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