eぶらあぼ 2024.5月号
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第371回 定期演奏会 6/29(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール問 東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 https://www.cityphil.jp5/14(火)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール問 東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999 https://www.operacity.jp48 当シリーズでは企画の性格上、選曲は対比関係でとらえられがちになるが、對馬はどんな音楽であれ、それが作曲された時代や環境に思いを巡らせ、聴衆に作品をできるだけありのままの姿で届けたいのだ。だからチェンバロを用いた作品で時代性を相対化し、また厳格さと新奇性がせめぎあうこれらの無伴奏曲からは、バッハ、パガニーニ、イザイ、バルトークといった伝統が浮かび上がってくるのだと述べる。音楽にわが身を捧げ、作品を深く掘り下げようとする求道者の姿が浮かんでくる。襟を正して耳を傾けたい。鈴木秀美実稚恵。盤石の存在感を示す名匠だが、そこに安住することなく表現を深め続ける小山が、鈴木との共演で、“盤石”に留まらぬ清新な演奏を聴かせるに違いない。 そしてシューベルトの“大ハ長調”、交響曲第8番「グレート」。昨年も彼の指揮で本作を聴けたが、説得力ある解小山実稚恵 ©Hideki Otsuka釈、管楽器を軸とする音色や表情の愉悦感、痛快なまでのエネルギーで、目の覚めるような快演だった。精妙な転調を経て、最後のハ音連打に到達するまで、好調の東京シティ・フィルとともに鈴木秀美が作り上げる“楽興のとき”。存分に満喫したい。©Ayane Shindo文:林 昌英文:江藤光紀鈴木秀美(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団古楽の泰斗が誘う熱狂に満ちた「ザ・グレート」 ウィーンの大作曲家たちの王道名作プログラムを、イメージを一新させるような名演奏で味わい直す。6月末、土曜マチネの東京シティ・フィル定期は、そんな時間を過ごせるだろう。 指揮は鈴木秀美。古楽の巨匠としての知見を踏まえた緻密な解釈と、それを覆すことも辞さないほどのパッション。歴史的奏法のアイディアで独特の音色を作りつつ、モダン楽器ならではのパワーや表現の幅も活かして、心を揺さぶる演奏を実現している。特に彼の指揮で聴く古典派・初期ロマン派作品は、毎回のように感銘深い演奏が実現していて、聴き逃がせない。 今回は、ニ短調の序奏とニ長調の主部が強い対比を作る、モーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》序曲で開幕。続くベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番は、この作曲家独特のハ短調の重みに覆われた傑作で、ホ長調の緩徐楽章、晴朗なハ長調のコーダの効果も印象的。ソリストは小山東京オペラシティ B■■■■■■■→C 對馬佳祐(ヴァイオリン)自身の感性を通して、それぞれの時代の音楽をありのままに ヴィルタス・クヮルテットのメンバーでオケへの客演などの実績も豊富な對馬佳祐。一昨年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では對馬の弾くヴァイオリンが映像を彩ったので、それと知らずに耳にしている人も多いだろう。そんな実力者が満を持して東京オペラシティの「B→C」に登場する。 「B→C」は「バッハからコンテンポラリーへ」の意で、出演者にはそれを踏まえたプログラミングが求められる。對馬の答えは前半がチェンバロ伴奏(永野光太郎)による2作(バッハ「ソナタ第1番 BWV1014」、シュニトケ「古様式による組曲」)、後半が無伴奏作品(モーツァルト/對馬編「アヴェ・ヴェルム・コルプス」、エスケシュ「いざ来たれ」、三善晃「鏡」、土田英介・委嘱新作)。一見、古典と現代の対比が効いているようだが、對馬は「選曲自体に不要な意味を持たせない」「バッハと現代を対比構造に置かない」と述べている。

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