eぶらあぼ 2024.5月号
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40Interview上野 真(ピアノ)次代へ繋ぐ、先達のピアニズム 横須賀生まれの世界的ピアニスト、野島稔の名を冠した「野島 稔・よこすかピアノコンクール」は、野島が2022年に他界したことを受け、惜しまれながらも同年を最後に開催を終了した。全9回で640名もの若いピアニストが臨み、優れた音楽家を発掘・育成をしてきた。今年5月、同コンクールおよび野島の功績を偲び「野島 稔 メモリアル・コンサート」が2日にわたって開催されることになった。これまでの入賞・入選者と審査委員が出演する。 「野島先生の国際的なキャリアに基づく求道的な音楽への姿勢は、私たちの精神的支柱でした」。過去に3回審査委員を務めたピアニストの上野真はそう語る。 「先生はまだ渡航もままならない1960年代に旧ソ連へと留学し、モスクワ音楽院でオボーリンに師事された方。アメリカに渡ってからはカーゾン、ラローチャやクライバーンとの出会いもあり、巨匠たちから多大な影響を受けてこられました。このコンクールは、先生が往年の音楽家から受け継いだ芸術性を次世代へとつなぐ意図もあったのです。一次予選からよこすか芸術劇場の大きなホールを使い、二次予選課題曲のベートーヴェンのソナタはすべてのリピートをして演奏。本選でエトワール・シリーズ プラス Vol.1 佐藤晴真(チェロ) Part.1 無伴奏チェロ・リサイタル活躍目覚ましいチェリストの個性光る挑戦のプログラム 今年開館30周年を迎える、彩の国さいたま芸術劇場。この節目を機に、同劇場が主催する音楽部門の名シリーズ「エトワール」がリニューアルされた。これまではピアニストの紹介に特化してきたが、「エトワール・シリーズ プラス」と装いを新たにして、ピアノに限らず様々な楽器で活躍する若手アーティストを厳選、「リサイタル」と「室内楽」の2つのプログラムで開催する。 その新シリーズの1人目に選ばれたのは、チェリストの佐藤晴真。2019年、難関のミュンヘン国際音楽コンクールチェロ部門で日本人として初優勝を果たして注目を集め、以来各地で出演を重ね、演奏の度に評価を高める俊英だ。 5月開催の「リサイタル」は、全曲無伴奏作品。しかもバッハの第5組曲、クラムのソナタ、ブリテンの第3組曲という、刺激的かつ意義深い演目。佐藤によると、国も時代背景も異なる3曲ながら「調性を全てハ短調で統一した、挑戦のプログラム」という。自らの全てを露わにするような演目で、佐藤の現在地と覚悟を聴かせる。5/25(土)15:00 彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール問 彩の国さいたま芸術劇場0570-064-939 https://www.saf.or.jp/arthall/組むのは自由度の高いプログラムです。若い奏者の高い基礎力が問われ、奇を衒うのではない本当の意味での個性を育む素晴らしいコンクールでした。私も審査を通じ、入賞者はもちろん、そうでない方々の中にも、非常に高い能力を持つ若手奏者に出会うことができました」 メモリアル・コンサートの第1回は「ピアノ協奏曲」、第2回は「ピアノGALA」という構成。過去の入賞・入選者からは野上真梨子と小井土文哉が協奏曲を、本堂竣哉と安並貴史が独奏を披露する。「それぞれに優れた教育を受け、高い能力を持ち、奏法も解釈も、音楽に対する考え方も異なり、将来が楽しみな方ばかり」と上野は期待を寄せる。 ガラコンサートに出演する審査委員からは、上野と東誠三、迫昭嘉がベートーヴェンのソナタを演奏する。 「ベートーヴェンはやはり、ピアニストにとって精神的支柱となる作曲家です。彼のソナタは、技術面や音楽家としての姿勢を見つめ直したい時に立ち戻るべき作品。私は第21番『ワルト野島 稔 メモリアル・コンサート第1回 ピアノ協奏曲 5/3(金・祝) 15:00 第2回 ピアノGALA 5/18(土) 15:00よこすか芸術劇場問 横須賀芸術劇場046-823-9999 https://www.yokosuka-arts.or.jpシュタイン』を演奏します。フランスでこの曲は『夜明け』と呼ばれています。現代の社会も世界情勢もさまざまな困難を抱えていますが、ポジティブな力と美しさを持つこの作品のエネルギーを、皆様にお届けできればと願っています」取材・文:飯田有抄©Seiichi Saito©Alina Zhdanova文:林 昌英

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