eぶらあぼ 2024.5月号
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CDCDCDCD112ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」/飯守泰次郎&東京シティ・フィル大聖堂/マリア・エステル・グスマン韓国の若き音楽家たち2020 Vol.3/イム・ユンチャンビリーフ クラリネット小品集/伊藤圭逝去の約4ヵ月前に行われた巨匠・飯守生涯最後のステージのライブ録音。当日は、そう思わずに聴いて、80歳を超えた飯守の溌剌とした運びと、盟友たる東京シティ・フィルのマエストロへの共感に満ちた演奏に感心したのを憶えている。CDでも基本的な印象は変わらないが、全4楽章の見事な構成、木管楽器の瑞々しさ、そして前作の8番以上に自然体と思える表現など、改めて気付かされる点も多い。中でも第4楽章の堂々たる音楽には別れの気配などまるでなく、ブルックナー音楽に対する飯守の矜持が感じられる。これは“毅然として温かな”傾聴すべき記録だ。(柴田克彦)「ギター界の女王」と称される大ベテラン、グスマンの最新盤はバリオスの名作「大聖堂」を表題に据えた。南米の郷愁を湛えた旋律に始まりキレのあるテクニックで駆け抜ける〈荘厳なアレグロ〉まで貫禄の演奏だ。他にもグスマンの円熟ぶりを示す多彩な楽曲が盛りだくさんで、演奏のそこかしこにセビーリャ生まれの血を感じさせる躍動や哀感が溢れている。自身の編曲によるアルベニスやバッハの古典作に始まり、ピアソラのタンゴを経て、「カッチーニのアヴェ・マリア」やモリコーネの映画音楽まで、誰もが知るメロディをちりばめたサービス精神もうれしい。通から初心者まで幅広く薦めたい。(江藤光紀)2004年生まれの韓国の新星イム・ユンチャンが、22年ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールで史上最年少優勝を果たす2年前、16歳で収録されたデビューアルバム。ベートーヴェンの「月光」ソナタは、3つの楽章の異なるキャラクターを明確に伝え、第3楽章は爆発力をもって聴かせるが、全体の連関性・俯瞰力を感じさせる演奏だ。リストの巡礼の年第2年「イタリア」は、内省的な表現と輝かしく堂々たる表現とが、シームレスかつコントラスト豊かに描かれる。ユンチャンの早熟な音楽性が、恐るべき密度で詰め込まれた一枚だ。   (飯田有抄)NHK交響楽団クラリネット首席の伊藤圭が魅力的な小品集をリリースした。伊藤の音は深々とした美音であり、旋律の歌い回しにも実に味わいがある。バルトーク「3つのチーク地方の民謡」は単純な構成から細やかな情感が伝わってくる。ラヴェル「ハバネラ形式の小品」は切り立ったリズムから異国情緒がこぼれ落ちる。ラフマニノフのチェロ・ソナタのアンダンテは、美しい。チェロとは違った味があり、榊原紀保子のピアノもとてもきれい。うっとりとなる。ヴィドール「序奏とロンド」では、序奏の奥行きのある響きとロンドの躍動感、そして軽々とこなす技巧的なパッセージの数々。全く見事な出来栄えだ。(横原千史)ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」(1878/80年稿・ノーヴァク版)飯守泰次郎(指揮)東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団アルベニス(M.E.グスマン編):「イベリア組曲」より〈エル・アルバイシン〉/J.S.バッハ(グスマン編):G線上のアリア/バリオス:大聖堂/ピアソラ(S.アサド編):ブエノスアイレスの春/カッチーニのアヴェ・マリア(V.ヴァヴィロフ作、グスマン編)/モリコーネ(グスマン編):ガブリエルのオーボエ 他マリア・エステル・グスマン(ギター)マイスター・ミュージックMM-4528 ¥3520(税込)ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番「月光」/リスト:巡礼の年第2年「イタリア」イム・ユンチャン(ピアノ)Aulos media/東京エムプラスXAMC 2194 ¥3300(税込)ヴィドール:序奏とロンド/ラヴェル:ハバネラ形式の小品/バルトーク:3つのチーク地方の民謡/ラフマニノフ:チェロ・ソナタより第3楽章/ピアソラ:アヴェ・マリア「タンティ・アンニ・プリマ」/ヘス:映画『ラベンダーの咲く庭で』よりテーマ 他伊藤圭(クラリネット)榊原紀保子(ピアノ)収録:2023年4月、サントリーホール(ライブ)フォンテックFOCD9897 ¥3080(税込)録音研究室(レック・ラボ)NIKU-9059 ¥3080(税込)

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