eぶらあぼ 2024.4月号
38/145

 フランスの地中海沿岸にある独立都市国家、モナコ公国のモンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団が、2016年から芸術監督兼音楽監督を務める山田和樹(指揮)、藤田真央(ピアノ)とともに5月25日から6月1日、日本を訪れる。同楽団は16年にスロバキア出身のマリオ・コシックと西本智実の指揮で各地を回ったが、就任8シーズン目の山田とは初の日本ツアーに当たる。東京・サントリーホールの2公演(5/27, 5/28)とロームシアター京都(5/31)の3公演はローム ミュージック ファンデーション(RMF)が「公演スポンサーに限らず、山田が架け橋となるプロジェクトを世界規模で支援する」という「RMF&山田和樹 グローバル プロジェクト」のキックオフを兼ねている。 モンテカルロ・フィルは1856年設立の「新外国人管弦楽団」が前身。その後「モンテカルロ国立歌劇場管弦楽団」を名乗っていたが、1980年に現在の名称に改められた。フランスとイタリアにはさまれた人口約3万6千人の小国ながら、富裕層の集積で豊かな経済力をもつ国柄を反映し、オーケストラは90人規模のフル編成でヨーロッパ屈指の演奏能力を備えている。歴代シェフにはポール・パレー、ルイ・フレモー、イーゴリ・マルケヴィチ、ロヴロ・フォン・マタチッチ、ローレンス・フォスター、ジャンルイジ・ジェルメッティ、ジェームズ・デプリースト、マレク・ヤノフスキら、世界のマエストロが名を残してきた。 山田は当時の音楽監督ヤコヴ・クライツベルク(セミヨン・ビシュコフの実弟)が2011年3月15日に癌のため51歳で亡くなった際に代役として呼ばれ、モンテカルロ・フィルを初めて指揮した。「オーケストラが深い悲しみに包まれているのが目に見えるようでした」と振り返るが、演奏会は成功。その後に音楽監督に就いたジェルメッティの推薦で14年に首席客演指揮者となり、16年に現在のポストへ昇任した。第1期は3年の契約、次に2年延長され、さらに26年までと更新された。監督権限は絶大で、音楽面だけではなく楽員の人事権などを握り、運営面にも深く関わる。チェチーリア・バルトリが総監督(ジェネラル・ディレクター)を務める歌劇場との関係は現在も密接で「年に4演目のオペラ、1演目のバレエをモンテカルロ・フィルが担います」(山田) 山田は2月5日の記者会見で、モンテカルロ・フィルの音の個性をこう説明した。「気質からして、21世紀のオーケストラではないような面があります。あれほど小さな国家がフランスに囲まれていて、これまでも存亡の危機はあったものの今なお存在するように、モンテカルロ・フィルの音には古き良き時代の雰囲気、色があります」。日常のコミュニケーションはフランス語、弦の50%超、管の100%近くがフランス人で、管楽器やコントラバスもフレンチ・スタイルを守っている。モナコといえばカジノ、F1レースが有名だが、山田によれば「カジノの経営もしながらスポーツや文化の振興により力を入れています。国家元首のアルベール2世はとても気さくな方で大のスポーツ好きなのですが、オーケストラの活動をもっと充実させて、文化への興味をひきつづけていくことが、我々の使命でもあります」。 フランスのオーケストラよりも古風なフランス流儀に徹するモンテカルロ・フィルの特色を最大限に生かす曲目として、山田は後半のメインディッシュにベルリオーズの「幻想交響曲」、サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付」の2曲を選んだ。前半は藤田が独奏するピアノ協奏曲のパートで、ベートーヴェンの第3番を弾く日(5/27)には同じ作曲家の序曲「コリオラン」、ラヴェルの「両手」協奏曲を弾く日(5/28, 5/31)にはドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」を前に置く。山田は「真央くんが10代の時から面識がありながら、ご一緒したのはガラコンサートなど楽曲の一部にとどまり、フルサイズの共演は今回が初めてです」と、意外な事実を明かした。2024年、山田はシカゴ交響楽団、藤田はロサンゼルス・フィルハーモニックとそれぞれアメリカ合衆国のメジャーオーケストラにデビュー。モンテカルロ・フィルとの日本ツアーは2人の今後を占う好機にもなりそうだ。Profile山田和樹2009年第51回ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝。ほどなくBBC響を指揮してヨーロッパデビュー。以来、破竹の勢いで活躍の場を広げている。16/17シーズンからモンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団芸術監督兼音楽監督、23年4月からバーミンガム市交響楽団の首席指揮者兼アーティスティックアドバイザーに就任。22年にはモナコ公国からシュバリエ功労勲章を受章した。ローム ミュージック ファンデーション音楽在外研究生として渡欧。35文:池田卓夫若き巨匠が引き出す古き良きオーケストラサウンド

元のページ  ../index.html#38

このブックを見る