eぶらあぼ 2024.4月号
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東条碩夫 武満徹氏作曲の「ノヴェンバー・ステップス」(管弦楽、琵琶、尺八という組み合わせで演奏される)という有名な作品は、1967年11月、小澤征爾さんがニューヨーク・フィルハーモニックを指揮して世界初演したものであることは、どなたも御存じであろう。小澤征爾さんの訃報が解禁された今年2月9日の夜、サントリーホールでは山田和樹氏の指揮する読売日本交響楽団が、偶然にもその曲を演奏していたのだ。不思議な巡り合わせである。私はその演奏を聴きながら、57年前に小澤さんがその初演を指揮する直前だったか直後だったか、私が制作していたFM東海(東海大学FM放送。FM東京の前身)の番組に出演してくれ、その曲について「凄い曲だよ」と興奮して語っていたのを懐かしく思い出していた。彼は、尺八の音を身振りと口とで真似し、こう言ったのだ。「オーケストラのあとにこういう、ボウウウウッて音が延々と続いて行く曲なの。僕、圧倒されてもう、涙が出ちゃったよ。うん、オーケストラもお客も、みんなびっくりしてた」。 小澤さんは当時、既にトロント響音楽監督なども務め、北米では赫々たる人気を得ていた。そし©Michiharu Okubo28In Memoriam Seiji Ozawa 1935-2024世界から愛されて――天衣無縫の巨人

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