■■■■■■128●【7月の注目オペラ・オーケストラ公演】(通常公演分) 一昨年に続き、ウィーン国立歌劇場では7月にも公演がある。とはいえ、メゾ・ソプラノのバルトリを中心とした「ゲスト・パフォーマンス・チェチーリア・バルトリ」と称するミニ音楽祭のようなイベント。演奏もレ・ミュジシャン・デュ・プランス-モナコが担当する。 その他のオペラ公演は、6月からの継続となるベルリン州立歌劇場のダルバヴィ「抵抗の憂鬱」、ザクセン州立歌劇場のベルリオーズ「ベンヴェヌート・チェッリーニ」、ケルン歌劇場のアダメク「イネス」、フランクフルト歌劇場のアレヴィ「ユダヤの女」、チューリヒ歌劇場のヴェルディ「シチリア島の夕べの祈り」、ミラノ・スカラ座のプッチーニ「トゥーランドット」、パリ・オペラ座のスポンティーニ「ヴェスタの巫女」などが7月公演としては注目。英国ロイヤル・オペラのプッチーニ「トスカ」はバッティストーニの指揮ぶりに期待。 オーケストラでは、ティーレマン指揮シュターツカペレ・ドレスデンのマーラー「千人の交響曲」がすでにチケット完売状態。同じマーラーでは、ハンブルク・フィルでアダム・フィッシャーの振るマーラー交響曲第4番のソプラノ独唱にレージネヴァが出演するというのがちょっと珍しい。バイエルン放送響では、ラトルがベルリオーズの「葬送と勝利の大交響曲」を演奏するのが興味深い。一方、全曲をシェーンベルクで固めたロト指揮SWR響の演奏会も要注目。ヴァイオリン協奏曲のソリストがカプソンというのも楽しみ。なお、ミラノ・スカラ座管でハーディングが振るモーツァルトの「レクイエム」でソプラノを歌うグリゴリアンは、アスミクとは別人なのでご注意を。●【夏の音楽祭】(7月分)〔Ⅰ〕オーストリア まずは「ザルツブルク音楽祭」。7月に恒例の「OUBERTURE SPIRITUELLE」シリーズが今年も面白い。今年のテーマは「Et exspecto」(ラテン語/われは待ち望む)。クラシックの楽曲名としてはメシアンの「Et exspecto resurrectionem mortuorum(われ死者の復活を待ち望む)」でお馴染みの表現かもしれない。このテーマの下に、ミンゲ四重奏団、ヴァイオリンのコパチンスカヤ、ムニエ指揮ヴォクス・ルミニス、カンブルラン指揮クラングフォルム・ウィーン、タリス・スコラーズ、サヴァール指揮ル・コンセール・デ・ナシオン、といった出演陣が、バッハやヘンデルの時代からクルターグ、グリゼー、ノーノといった現代まで宗教・世俗を超えた音楽世界を13の演奏会で展開する。他方、ティーレマン指揮のR.シュトラウス「カプリッチョ」、クルレンツィス指揮のモーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」なども話題となろう。カプソン、ハーゲン、レヴィットによるブラームスのピアノ三重奏やゲルハーヘルのリート・リサイタルも見逃せない。フラーの自作自演も興味深い。 湖上オペラで有名な「ブレゲンツ音楽祭」。湖上ステージの方は「魔弾の射手」だが、ヴェルクシュタットビューネで上演されるアダメクの「接続不能」という作品も何だか興味をそそる。「シュティリアルテ音楽祭」を久々掲載したが、アーノンクール時代を経て、現在では古楽のサヴァールや、ピアノのエマールがこの音楽祭の重要な核となっている。〔Ⅱ〕ドイツ 「ミュンヘン・オペラ・フェスティバル」では、新演出はプリンツレゲンテン劇場で上演されるドビュッシー「ペレアスとメリザンド」だけ。あとは6月にプレミエ初日を開けたばかりのリゲティ「ル・グラン・マカーブル」(ナガノ指揮)以下、チャイコフスキー「スペードの女王」、ヴァインベルク「パサジェルカ」、プッチーニ「トスカ」、J.シュトラウス「こうもり」等々、全て2023/24シーズン中にプレミエになった作品の再演となっている。ペトレンコ時代のワーグナー「タンホイザー」も含めて、「近年の新演出総決算」といった趣だ。ちなみに、最終日7月31日が大晦日でもないのに「こうもり」で締め、というのが面白い。 今年の「バイロイト音楽祭」では、シャーガーが主役を歌う「トリスタンとイゾルデ」の新演出公演が話題を呼ぶ。シャーガーはこれ以外にパルジファル役も歌うが、もう1人、タンホイザーやジークフリートを歌うフォークトにも要注目。彼はこの1月にドレスデンでティーレマン指揮のもと歌ったトリスタンでも、現地評で高い評価を受けているという。ヘルデンテナーとして本格化したフォークトを聴けるのは楽しみだ。「リング」の指揮はインキネンからシモーネ・ヤングに代わったが、バイロイト3人目の女性指揮者のお手並み拝見。 昨年に続いて今年も「ヘレンキームゼー音楽祭」を取り上げた。ルートヴィヒ2世により建設されたヘレンキームゼー城も会場の一つという観光価値抜群の音楽祭。ケント・ナガノがブルックナーの交響曲を3曲振る(4番・6番・9番)。4月からの開催となる「ルール・ピアノ・フェスティバル」は、7月にはキーシンやシフが登場して音楽祭の終幕を飾る。ヨーロッパでしか聴けないピアノのレジェンド、グリゴリー・ソコロフは「ラインガウ音楽祭」、「キッシンゲンの夏音楽祭」と連続して登場。その「キッシンゲンの夏音楽祭」では、ラトル指揮のバイエルン放送響、ピノック指揮のザルツブルク・モーツァルテウム管などの他、ヴァイオリンのクリスティアン・テツラフと、その娘でオーボイストのマリー・テツラフが共演するベルリン・バロック・ゾリステンのコンサートも楽しみ。ちなみに、このコンビは「ラインガウ音楽祭」にも登場する。また、ベルリン古楽アカデミーの公演中に書き込んだ「ラインスベルク城室内オペラ・フェスティバル」でのピッチンニ「ディド」という作品も興味深い。バーデン・バーデンの「夏の音楽祭」では、今年もネゼ=セガンがロンドン響やヨーロッパ室内管を振ったり、室内アンサンブルでピアノを弾いたりと大活躍。〔Ⅲ〕スイス 例年通り「グシュタード・メニューイン・フェスティバル」と「ヴェルビエ音楽祭」という山岳スキーリゾート地で行われる代表的2大音楽祭を掲載した。前者では、7月中はヴァイオリンのユリア・フィッシャーが中心となったリサイタルや室内アンサンブルが聴きもの。ピアノの角野隼斗が出演するのも話題になろう。後者はいつもながらの演奏会数の多さに圧倒される。ラトルやハーディングの指揮、キーシンやシフのピアノ、カヴァコスのヴァイオリン、藤田真央のピアノ伴奏、エベーヌ弦楽四重奏団等々、多種多彩なコンサートが連続する。〔Ⅳ〕イタリア イタリアでは、ローマ歌劇場の夏の定番「カラカラ浴場」公演が残念ながら現段階では詳細未確定。久々掲載した「ラヴェンナ音楽祭」には、開幕の5月から7月にかけて、ムーティ、ペトレンコ、ラトルといった人気指揮者が続々登場する。ただし、オーケストラ公演が中心で、例えばムーティ指揮のオペラ公演などが見当たらないのはちょっと残念。玄人好みの選曲で毎年注目の「マルティナ・フランカ音楽祭」は、今年はやや一般向きの公演内容で、ルイージがベッリーニ「ノルマ」を振るのが要注目。「ヴェローナ野外音楽祭」は言わずもがなの代表的な野外音楽祭。〔Ⅵ〕フランス 今年の「エクサン・プロヴァンス音楽祭」は特定の指揮者やオーケストラが主導するのではなく、例えばオペラでは、アイム指揮ル・コンセール・ダストレによるグルック、ピション指揮ピグマリオンによるラモーやモーツァルト、といった古楽系のラインナップに加えて、マルッキ指揮リヨン歌劇場管によるドビュッシー「ペレアスとメリザンド」、ルスティオーニ指揮の同歌劇場管によるプッチーニ「蝶々夫人」、さらには、ブリューズ指揮アンサンブル・アンテルコンタンポランによるノイヴィルト、クルターグなどの現代音楽コンサートと幅広いメニューが予定されている。中でも、演出家のグートと指揮者のピションが再創作したラモーの「サムソン」やヴァイオリンのコパチンスカヤが出演するクルターグの「カフカ断章」は間違いなく聴きもの。〔Ⅷ〕イギリス 「グラインドボーン・オペラ・フェスティバル」では、ストヤノヴァやオールダーの出演するヘンデル「ジュリオ・チェーザレ」と、ティチアーティが指揮するワーグナー「トリスタンとイゾルデ」が面白そうだ。「ガージントン・オペラ」は日本ではまだまだ知名度が低いが、「グラインドボーン」に似た、広大な敷地でピクニックも楽しめる庭園型フェスティバル。フィルハーモニア管がメインのオーケストラだが、イングリッシュ・コンサートがピットに入るラモー「プラテー」などもある。(以下次号) (曽雌裕一・そしひろかず)(コメントできなかった注目公演も多いので本文の◎印をご参照下さい)7月+夏の音楽祭(その1)の見もの・聴きもの曽雌裕一 編2024年7月の
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