CDSACDCDCD118昨年に続く紀尾井ホールでの葵トリオのライブ録音は、シューマンの晴朗な第2番と、彼が「天才だ」と激賞して世に出したショパンの佳品という意義深い組み合わせ。卓越した個の力と完璧な一体感の両立はもはや言うまでもないが、当盤ではショパンにおける秋元のピアノの活躍ぶりに注目。この作曲家ならではの華やかな美音や技巧を聴かせつつ、一瞬で弦の音に溶け込み、その切り替えを巧みにこなす職人芸。そこに乗りながら、熱くも凛とした音でリードする小川のヴァイオリン、豊かな低音とほれぼれする歌を奏でる伊東のチェロが加わる魅力たるや。トリオの理想形にまた近づく。(林 昌英)既出の第3番とともに23年のフェスタサマーミューザ KAWASAKIで披露された、ノットには珍しいチャイコフスキー演奏の記録。むろんこれは、ロシア情趣に富んだ激情的な演奏ではなく、新しい視点で紡がれる革新的な音楽である。第1楽章は普段隠れがちな弦楽器の動き等が瑞々しく響き、第2楽章は感傷的な歌ではなく誠心な音の綾、第3楽章は前進するスケルツォ、第4楽章はマーラーにも通じる白熱の器楽音楽だ。しかもクールな表現とは違って、普遍的な熱気や高揚感を湛えている点がノットらしいところ。ともかく同作曲家の音楽を見直させる1枚であるのは間違いない。(柴田克彦)30年にわたり日本オペラ界の最前線で活躍する“大黒柱”のようなテノール、福井敬の最新作は、どれもがリサイタルの忘れ得ぬアンコール・ピースになりそうな歌を集めた1枚。メインとなるのは表題を含む、R.シュトラウス究極のラブ・ソングたちだが、日本の名詩(谷川俊太郎、岸田衿子、三好達治)に木下牧子が美しいメロディを付した冒頭の3歌曲から心を掴まれてしまう。加えてフランス歌曲パートも充実。イタリアものではお馴染みのオペラ作曲家に加えて、チマーラ〈海のストルネッロ〉やガスタルドン〈禁じられた音楽〉などの知る人ぞ知る佳曲も魅力的だ。(東端哲也)戦前から日米を股にかけ活躍した木琴奏者・平岡養一が委嘱したり初演した3つの作品を収録した。黛敏郎作品はすでに鍵盤打楽器奏者のレパートリーになっているが、近年発見され飯野が初演した小山清茂作品は長野の民謡を取り込んだ分かりやすい曲、紙恭輔作品も愛すべき佳品で、溌剌とした演奏と相まって今後このジャンルで活動する人々の指標となっていくだろう。興味深いことに黛・小山作品は委嘱した平岡が気に入らなかったり書き直しを要求したため、本人が初演しなかった。平岡がいたからこそ書かれた曲だとはいえ、有名作曲家に平気でダメ出しする妥協なき姿勢が伝わるエピソードだ。(江藤光紀)葵トリオ《ライヴ at 紀尾井ホール 2023》IIシューマン:ピアノ三重奏曲第2番/ショパン:ピアノ三重奏曲葵トリオ【秋元孝介(ピアノ) 小川響子(ヴァイオリン) 伊東裕(チェロ)】チャイコフスキー:交響曲第4番/ジョナサン・ノット&東響愛を抱いて/福井敬木琴協奏曲集 平岡養一と日本の作曲家たち/飯野晶子チャイコフスキー:交響曲第4番ジョナサン・ノット(指揮)東京交響楽団木下牧子:しぬまえにおじいさんのいったこと、竹とんぼに、鷗/R.シュトラウス:愛を抱いて、万霊節、明日!、献呈/ドビュッシー:星の夜/フォーレ:リディア/チマーラ:海のストルネッロ/レオンカヴァッロ:朝の歌/ガスタルドン:禁じられた音楽/ロッシーニ:踊り 他福井敬(テノール)谷池重紬子(ピアノ)ディスク クラシカ ジャパンDCJA-21050 ¥3300(税込)黛敏郎:木琴小協奏曲/紙恭輔(西邑由紀子編):木琴と管絃楽のための協奏曲/小山清茂(西邑編):木琴と管弦楽のための協奏組曲「鄙唄」飯野晶子(木琴)佐藤友美(ピアノ)収録:2023年2月、紀尾井ホール(ライブ)ナミ・レコードWWCC-8004 ¥2750(税込)収録:2023年7月、ミューザ川崎シンフォニーホール(ライブ)オクタヴィア・レコードOVCL-00838 ¥3850(税込)コジマ録音ALCD-7293 ¥3300(税込)
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