SACDSACDCDCD112井上道義が21~22年に3つの楽団を振ってライブ録音した(些か珍しい)ブラームス全集。ここでは、強固な既成概念を排して、すべての音楽をじっくりと構築しながら各曲の特質をストレートに伝える、真の正攻法ともいうべき演奏が展開されている。京響の持ち味を生かした豊麗・芳醇な1番はとりわけ新鮮で、表情豊かな第2楽章は特に聴きもの。同曲に限らず緩徐楽章のしなやかな美しさが大きな魅力ともなっている。このほか、いかめしい(?)1、3番が2番と同様の雰囲気を湛えている点、4番の濃厚さや細部の鮮やかさなど、興味深い要素が満載されている。 (柴田克彦)若き日にプロコフィエフの初期ピアノ作品の録音が高く評価され、プロコフィエフ元夫人よりACCディスク大賞を贈られるという受賞歴を持つエル=バシャ。第2次大戦下で作曲された「戦争ソナタ」(第6・7・8番)の録音が、満を持して昨年5月に東京で行われた。エル=バシャらしい極めて明晰な解釈が隅々まで行き届いており、抑制のきいた演奏表現が逆説的に作品の生命力を輝かせる。程よくブレーキをきかせつつ巧みなアクセル使いで走り抜け、表現としての無骨さと、エレガントな滑らかさのコントラストはまさに熟練のピアニズムである。 (飯田有抄)昨年創立60周年を迎えたコレギウム・ムジクム・テレマンのテレマン作品集。延原武春の指揮は、明快で格調高い。「3つのトランペットとティンパニのための協奏曲」は、典雅で華やか。耳の愉悦といえる。序曲 嬰へ短調は、速めのテンポで生き生きと造形される。序曲 ニ長調は、トランペットとティンパニが加わり、華麗な響きとなる。第1楽章のフガート風摸倣は、声部の絡みが精緻でとても美しい。パッサカリアの激しい高揚も聴きもの。ヴァイオリン・ソナタは、コンサートマスターのブンディースと高田泰治のチェンバロで、透明な美音と細やかなニュアンスが生きて、とても聴き応えがある。(横原千史)ピアニスト、作編曲家として幅広く活躍している、なかにしあかねによるイギリスの童謡編曲集。原曲を大切にしながら、さらにその美しさやあたたかさを引き立たせるなかにしの編曲の手腕が本盤でも見事に発揮されている。歌詞の世界観、一つひとつの言葉に寄り添い、繊細なアレンジが加えられており、楽曲に寄り添って聴くことができる。ソプラノの小川美羽、テノールの辻裕久、バリトンの春日保人の歌唱も、声の美しさはもちろんだが、言葉を大切に届ける姿勢が見えてきて、まるで童話や物語を聴いているような気分になる。常にそばに置いておきたい一枚となるはずだ。(長井進之介)ブラームス:交響曲全集/井上道義&京響、新日本フィル、広響ブラームス:交響曲第1番〜第4番井上道義(指揮)京都市交響楽団新日本フィルハーモニー交響楽団広島交響楽団プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第6番、第7番、第8番/アブデル=ラーマン・エル=バシャプロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第6番〜第8番アブデル=ラーマン・エル=バシャ(ピアノ)“テレマン”のテレマン/延原武春&コレギウム・ムジクム・テレマンテレマン:3つのトランペットとティンパニのための協奏曲、ヴァイオリン・ソナタ ニ長調、序曲 嬰へ短調、同ニ長調延原武春(指揮)コレギウム・ムジクム・テレマン収録:2021年3月、東海市芸術劇場 他(ライブ)オクタヴィア・レコードOVCL-00772(2枚組) ¥7700(税込)妙音舎MYCL-00043 ¥3740(税込)収録:2023年4月、東京文化会館(小)(ライブ)ナミ・レコードWWCC-8005 ¥2750(税込)イギリス童謡:ロンドン橋落ちる、コール王様、コケコッコー、こもりうた(黄金の眠り)、マフィン・マン、丘を越えて、誰が駒鳥を殺したの?、ハンプティ・ダンプティ、オレンジとレモン、小さな木の実のなる木、おねんねあかちゃん、きらきら星なかにしあかね(編曲/ピアノ)小川美羽(ソプラノ) 辻裕久(テノール) 春日保人(バリトン)コジマ録音ALCD-7302 ¥3300(税込)Twinkle, Twinkle, Little Star ―イギリス童謡集―/なかにしあかね
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