文:林 昌英◆ウェールズ弦楽四重奏団 ベートーヴェン・サイクル ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲を一つの団体が完奏する、CMGの名物シリーズ「ベートーヴェン・サイクル」。今年の担当は「ウェールズ弦楽四重奏団」。桐朋学園大学在学時の2006年結成、早くも08年にはミュンヘン国際音楽コンクール第3位受賞。さらに10年からは四重奏団としてバーゼルを拠点に2年以上の研鑽を積んで、独自の和声感やスコアの読み込み方、研ぎ澄まされた音色とアンサンブルなど、唯一無二の演奏を確立するに至った。22年には第一生命ホールでの「ベートーヴェン・チクルス」を完遂し、後進の指導に取り組む「ウェールズ・アカデミー」も始動。充実期にある彼らが新たに挑むサイクルは、一瞬たりとも気の抜けない、しかしすべてが理にかなって有機的につながっていく、世界中のどの演奏とも違うベートーヴェン体験ができるに違いない。◆「カルテットへようこそ!」 ―弦楽四重奏の世界に入り込む 今年は弦楽四重奏の充実ぶりが際立つ。殊に世界の最先端を走る3団体が日本人ソリストと共演するシリーズ「カルテット with…」は大注目。まず「ヴォーチェ弦楽四重奏団」(6/7)。ドビュッシーとラヴェルの二大傑作を大枠に配し、現代のバルメール作品と波多野睦美(メゾ・ソプラノ)とのドビュッシー「抒情的散文」を間に挟む、自信のフランス・プロを用意。次は「ダネル弦楽四重奏団」(6/10)。ソヴィエトものの清新な録音で名を馳せた彼ららしい、プロコフィエフ、ヴァインベルクという先鋭的な演目と、外山啓介(ピアノ)とのショスタコーヴィチの名品の組み合わせはファン必聴。そして「エルサレム弦楽四重奏団」(6/14)。コロナ禍中のCMG2021「ベートーヴェン・サイクル」に出演した彼らが再登場。メンデルスゾーンと小菅優(ピアノ)とのドヴォルジャークの名曲に加えて、20世紀イスラエルのベン゠ハイム作品という秘曲が聴ける。 上記のほかにも、いまや世界に羽ばたく「クァルテット・インテグラ」(6/6)がスメタナほかを聴かせる公演をはじめ、カルテットが出演するのは21公演中13公演に及ぶ。例年以上に内外のカルテットに浸れる機会になる。◆バラエティ豊かな演目、 期待の新鋭の登場 大きな話題を呼びそうな公演が「小菅優プロデュース『月に憑かれたピエロ』」(6/5)。今年生誕150年のシェーンベルクの異色の傑作を、ヴァイオリン(ヴィオラ)の金川真弓、メゾ・ソプラノのミヒャエラ・ゼリンガーほか、内外の名アーティストたちとともに聴かせる、小菅優渾身のステージとなる。 古楽の匠・渡邊順生がチェロの酒井淳と組む公演(6/2)も注目。今年はJ.S.バッハを特集し、渡邊はチェンバロ、酒井はヴィオラ・ダ・ガンバでガンバ・ソナタ集などに取り組む。 ソロ活動にテレビ出演などマルチな才能を発揮するヴァイオリニスト、廣津留すみれがCMGに初登 6月の風物詩のひとつ、国内最大級の室内楽の祭典「サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン(CMG)」。今年は6月1日から16日までの日程で、昨年に続き16日間、全21公演が「ブルーローズ」で開催される。今年は内外の弦楽四重奏団を中心に、充実のプログラムが用意されている。目の前で、聴く歓びをようこそ「室チェンバーミュージック・ガーデン内楽の庭」へ―サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン
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