38取材・文・写真:オザワ部長(吹奏楽作家)♪♪♪「定期演奏会が終わったら引退なんて考えられなくて。同期は個性豊かで強烈な人が多く、その分つらいことがいっぱいでした。何度も話し合いをして、お互いを知って、認め合って――それを何度も繰り返してきました。もうやだな、やめたいなと何度も思いましたけど、やっぱり一緒にいて安心するのは同期のみんななんです」 吹劇を初めて知る人も多いだろう。「吹奏楽による音楽劇」のことで、名物顧問・高橋健一先生が17年前に考案したオリジナルの劇作品だ。 吹奏楽部が定期演奏会で劇やミュージカルを披露する場合、既存の作品の簡略版を上演することが多い。だが、市船の吹劇は様々な意味で違う。 まず、セリフが一切ない。舞台上には役者と奏者(バンド隊と呼ばれる)が登場し、音楽とともに無言劇を演じる。物語は冒頭に簡単なテーマや設定がナレーションで説明されるだけなので、観客は音楽と演技から「おそらくこういう話だろう」と想像するしかない。音楽は、挿入歌的に歌われる歌以外は人気作曲家・樽屋雅徳による新作だ(一部、既存の音楽が引用される部分はある)。演出・振付はプロの振付師である三森渚が担当している。Vol.18 船橋市立船橋高等学校 吹奏楽部「正義の反対は悪なのか」高校吹奏楽の域を超えた市船オリジナル「吹劇」「陽梨(ひより)の手を握った瞬間に泣きました。いつもより握り返してくる手の力が強くて……」 千葉県船橋市にある「市船(いちふな)」こと市立船橋高校吹奏楽部でクラリネットを担当する3年生、鈴木若葉はそう語った。若葉は114名という大所帯の吹奏楽部をまとめる部長だ。 市船は定期演奏会を目前に控え、「吹劇(すいげき)」の練習の真っ最中だった。若葉はキャストのひとりとして同期で副部長のフルート担当、森下陽梨とともに演技をした。少女役の若葉が兵士役の陽梨の手を握ったとき、涙が流れた。もちろん、泣くのは台本にはないことだ。
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