第11回 羽石道代プラスシリーズ―ヒンデミット没後60周年に ピアノと私にできること―愛する作品を軸に、ロマンからモダンに至る道程を映し出す 東京藝術大学、同大学大学院をともに首席で卒業・修了したピアニストの羽石道代。ソリストとしてはもとより、室内楽をはじめとする様々な領域でのアンサンブル・ピアニストとして目覚ましい活躍を見せており、国内外のアーティストから厚い信頼を得ている。 そんな彼女の活動の中でも特に重要なものとなっているのが、ピアノ・ソロとアンサンブルを織り交ぜてのユニークなプログラミングによるコンサート・シリーズ「羽石道代プラスシリーズ」である。第11回となる今回は、12/27(水)19:00 東京文化会館(小)問 プロアルテムジケ03-3943-6677 https://www.proarte.jp63Interview砂川涼子(ソプラノ)はじめて尽くしの挑戦の舞台 快進撃を続ける「東京芸術劇場コンサートオペラ」シリーズ。9回目を迎える来年2月の公演の演目は、オッフェンバックの喜歌劇《美しきエレーヌ》だ。“オペレッタの父”であるオッフェンバックの代表作のひとつで、ヨーロッパでは頻繁に上演されているが、日本ではプロの音楽家による上演はこれが初めてとのこと。そしてタイトルロールには、近年その魅力にますます磨きがかかってきている砂川涼子が登場する。 「自分のレパートリーの中にはオペレッタはなかったので、最初にオファーをいただいた時には“私でよろしいのでしょうか”と思いました。まずは映像を観て、声や役柄について勉強し、音域的には合っていますし、これはがんばればきっと楽しいと思いお受けしました」 ヴィオレッタやミカエラ、ミミなど、これまで砂川が歌ってきた役は圧倒的に悲劇のヒロインが多い。砂川涼子と喜劇、というのが結びつかないという人も多いのではないだろうか。 「2016年にびわ湖ホールの《ドン・パスクワーレ》でノリーナを歌ったのですが、この時からもっと喜劇を演じてみたいという気持ちが生まれてきました。レパートリーに関しては、自分の声をキープしていくことを第一に考えていますので、指揮者や演出家、共演者、前半にバスバリトンの池田直樹との共演でブラームスの歌曲、後半は羽石にとって「音楽家人生の一つの柱になりつつある」というヒンデミットのピアノ曲「ルードゥス・トナリス」を選曲。ロマン派を代表する作曲家の美しい旋律と和声、それらに影響を受けつつも、そこから脱却を図った作曲家による作品を味わうことで、音楽史の“変革”を深く実感できることだろう。そして劇場などを総合的に考えて自分が歌えると思ったものに挑戦するようにしています。今年になって《源氏物語》《夕鶴》と初めて挑戦する作品が続いていて、そうしたら今回オペレッタのお話をいただき、今はワクワクでいっぱいです」 初めて、といえば「東京芸術劇場コンサートオペラ」シリーズに出演するのも初めての砂川。数々のオペラの舞台を踏んでいる砂川にとって、このシリーズの魅力はどんなところにあると考えているのだろうか。 「キャストや演出家も含め、いつも刺激的で新鮮なメンバーが集まり、新しいことを発信しているのがステキだなと思っていました。また、演奏会形式というのは通常のオペラ上演に比べると、音楽の比重が大きい。歌い手にとっては、いかにきちんと音楽で表現していくのかが求められます。それでいて作品本来の魅力は十分に伝わってくる。このシリーズに参加することが、きっと今後のオペラ東京芸術劇場コンサートオペラ vol.9オッフェンバック:喜歌劇《美しきエレーヌ》(全3幕/演奏会形式)2024.2/17(土)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール問 東京芸術劇場ボックスオフィス0570-010-296 https://www.geigeki.jp出演にも大いに活きてくると思っています」 フランス語のニュアンスを大切にしながら、オシャレでファンタジックな大人の世界を描き出したい、と意欲満々に語ってくれた。これまでに見たこともない新しい砂川涼子の出現を楽しみに待ちたい。羽石道代取材・文:室田尚子 ©Yoshinobu Fukaya文:長井進之介池田直樹
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