eぶらあぼ 2023.12月号
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 1989年に大阪・豊中市で生まれた出口大地は東京音楽大学、ベルリンのハンス・アイスラー音楽大学で指揮を修める前、関西学院大学で法律を学んでいた。法曹と指揮の共通点は過去に書かれた文献——六法全書や楽譜を現代の目で読み直し、いま起きている課題に対処する点だろうか?  2021年のハチャトゥリアン国際コンクール指揮部門優勝を機に東京フィルハーモニー交響楽団と縁ができ、22年の定期演奏会に抜擢され、23年はミューザ川崎シンフォニーホールなどでベルリオーズ「幻想交響曲」を初めて指揮する機会を得た後、歳末はついにベートーヴェン「第九」(交響曲)の演12/22(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール12/23(土)19:00 サントリーホール12/24(日)15:00 Bunkamura オーチャードホール問 東京フィルチケットサービス03-5353-9522 https://www.tpo.or.jp12/31(日)15:00 ミューザ川崎シンフォニーホール問 ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200 https://www.kawasaki-sym-hall.jp61 大晦日の楽しみといえばジルベスターコンサート。今年も「MUZAジルベスターコンサート」がフレッシュなソリストたちを招いて開催される。指揮は名匠、秋山和慶。東京交響楽団のメンバーを中心としたMUZAジルベスター管弦楽団を率いる。 プログラムはバラエティに富む。アルチュニアンのトランペット協奏曲では、14歳の児玉隼人がソロを務める。小学6年生でヤマハホールでリサイタルを開き、2022年の大阪国際音楽コンクールでは中学生ながら一般部門で第1位を獲得するなど、将来を嘱望秋山和慶 ©堀田力丸出口大地 ©hiro.pberg_berlin 光岡暁恵 ©Flavio Gallozzi児玉隼人奏会を任された。「幻想」を聴いて思ったのが譜読みの緻密さと躍動感の兼備であり、「書かれた情報」から現実の音への造型(ゲシュタルトゥング)の確かな方法論の存在だった。 東京音大の恩師、広上淳一は若いころ、同世代で東京フィル常任指揮者だった大野和士が「ある程度の年齢に達するまで『第九』は控える」と漏らした時、「指揮の難所がたくさんあるから、筋肉が若いうちに振りを覚えた方される逸材だ。 ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」では、若手ジャズ・ピアニスト、小沢咲希がソロを担う。小沢は洗足学園音楽大学ジャズコース在学中より演奏活動を行い、卒業後もさまざまなミュージシャンとのライブを精力的にくりひろげる気鋭。今回はベースの井上陽介、ドラムスの高橋信之介とのトリオ編成で名曲に挑む。 シベリウスのヴァイオリン協奏曲で中島郁子小沢咲希中野りな ©kisekimichiko清水徹太郎MUZAジルベスター管弦楽団 ©T.Tairadateは、今もっとも注目される若手のひとり、中野りなのソロが聴きもの。2022年の仙台国際音楽コンクールにおいて史上最年少の17歳で優勝するなど輝かしい受賞歴を誇り、すでに主要オーケストラとの共演も多い新星だ。清新なシベリウスを披露してくれることだろう。 プログラムのおしまいはシベリウスの交響詩「フィンランディア」。輝かしい希望の音楽で一年を締めくくる。文:池田卓夫文:飯尾洋一上江隼人がいい」とアドバイスした。今回、新国立劇場合唱団の合唱指揮を担う水戸博之も広上門下の若手で、フレッシュな響きの創造を出口とともに目指す。 独唱の光岡暁恵、中島郁子、清水徹太郎、上江隼人は普段ベルカント・オペラで活躍する美声の持ち主。イタリアでテバルディ、シミオナート、デル・モナコ、バスティアニーニがベートーヴェンの「第九」を歌う姿は想像できないが、「第九大国」の日本ではこんな贅沢も許される。MUZAジルベスターコンサート20231年の締めくくりは次世代を担う若き才能の共演で出口大地(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団 ベートーヴェン「第九」特別演奏会日本デビュー以来共演を重ねる楽団と、ついに歳末の「第九」へ

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