43 吹奏楽コンクールは中学校や高校の吹奏楽部にとって大きな目標であり、全国大会や上位大会に出場するために部員たちは青春をかけている。コンクールで好成績を上げている学校は人気が高く、部員も多く集まる。 ところが、SITバンドは「競わずに全力で楽しむ」ことを主眼とし、現在はコンクールに参加していない。北海道池田高校で吹奏楽部員たちとともにダンプレを考案し、現在はSITバンドの監督を務めている小出學先生は理由をこう説明する。「部活動の時間が削減されて、活動内容の選択が必要になったとき、コンクールに取り組むよりも多くのライブを行うほうが吹奏楽の本質だろうということで、コンクールに出ないことにしました」 部員のほとんどはコンクール不参加を承知で入部してきている。部員数は、なんと引退した3年生も含めると134名! 驚異的な多さだ。 チーフステージマネージャーでフルート担当の佐藤花奏(はな)はこう語る。「中学時代のコンクールはつらい思い出で、楽器を触りたくないと思ってしまうときもありました。いまは毎日部活をするだけで笑顔になれるし、毎週のようにいろんなところでライブをして、たくさんのお客さんの笑顔が見られて幸せです」 SITバンドが演奏するのはサザンオールスターズの《勝手にシンドバッド》や昭和のテレビ番組のテーマ曲《ゲバゲバ90分》、東京スカパラダイスオーケストラの《パンドラタイムズ》など、これまた普通の吹奏楽部とは一味違った曲が多い。 総務長でアルトサックス担当の髙橋琉那(るな)は「コンクールとは違う吹奏楽の魅力を知ったから、もう戻りたくない」と笑顔で言う。「学校の向かいにある老人ホームで演奏したとき、一人のおばあちゃんに『毎日、学校から聞こえてくる練習の音を楽しみにしているよ』『またここに演奏しにきてね。それまで長生きしたい』と言ってもらえました。自分たちの活動に改めてやりがいを感じた瞬間でした」左より:佐藤花奏さん、髙石梨桜さん、飯田華菜さん、髙橋琉那さん サブリーダーでクラリネット担当の飯田華菜(はな)にも琉那と似た思い出がある。「ライブをしていたら客席前列でずっと泣いている女の子がいました。声をかけてみると、『すごくカッコよくて泣いちゃった』って。自分たちはそんなにも人の心を動かせる活動をしているんだと実感できました。SITバンドは世界でいちばん青春できる場所じゃないかと思います」小出 學先生 道内では引っ張りだこで、年間約80ステージをこなすSITバンド。ダンプレを通じて観客を笑顔にし、涙が出るほどの感動を与え、自分たちも青春を実感できる――。 コンクールに燃えるのとはまた違う、幸福感に満ちあふれた吹奏楽の姿がそこにはあった。♪♪♪拡大版はぶらあぼONLINEで!→
元のページ ../index.html#46